水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

シナリオ 夏の風景 特別編(上) 平和と温もり(2) <推敲版>

2010年02月24日 00時00分01秒 | #小説

 ≪脚色≫

      夏の風景
 
      特別編
(上)平和と温もり(2) <推敲版>      

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]
 
  その他   ・・恭一の上司と同僚社員、猫のタマ、犬のポチ

○ 洗い場  昼
   空に広がる入道雲。日蔭で涼んで寛ぐタマとポチ。水浴びを終え、衣類をつける正也。滾々と
湧く水。蝉しぐれ。
  正也M「入道雲が俄かに湧き起こり、青空にその威容を現すと、もう夏本番である」

○ 離れ 昼
   恭之介の部屋の定位置で横になる正也。蝉しぐれ。
  正也M「恒例となってしまった湧き水の洗い場で水浴びを済ませ、昼寝をした。恒例になって
しまったのは二年前のリフォーム工事か
       らのことで、母屋では工事音が五月蠅くて
寝られず、じいちゃんの離れで寝る破目に陥ったせいだ。リフォーム工事が済んだ去
       年の夏も、僕は水浴びを終えてから母屋で昼寝をした。…その訳は、味をしめたか
らである(最後の一節は可愛く)」
   片手で団扇を扇ぎながら部屋へ入る恭一。もう片方の手に持つラジコンの模型セットを枕元
へ置く恭一。
  恭一  「よく寝てるな…(小声で呟いて)」
  正也M「未だ眠っていないとも知らず、父さんは約束したラジコンの鉄道模型セットを僕の枕
元へ置いた。冬のサンタじゃあるまいし、シ
       ャイで直接、手渡せない性格が父さんを
未だに安定したヒラとして存続させている原動力なのだろう。出世、出世と人は云う

       れど、そんな人ばかりじゃ、偉い人だけになってしまうから、父さんは貴重な存在
だと僕は思っている。それに…(◎に続けて
       読む)」

○ (フラッシュ) 料亭 夜
   頭へネクタイを巻き、得意の踊りを披露する、赤ら顔の恭一。その芸に浮かれる膳を囲む同
僚社員や上司。
  正也M「(◎)自分の父親を弁護する訳ではないが、適度に優しい上に宴会部長だし…、(◇
に続けて読む)」

○ (フラッシュ) 台所 昼
   勢いよく、包丁で西瓜を一刀両断する恭之介。それを怖々と見る恭一。
  正也M「(◇)今一、じいちゃんのように度胸がない点を除けば素晴らしい父親なのだ(△に
けて読む)」
   隣で小皿をテーブルへ置く道子。
  正也M「(△)勿論、母さんは、その父さんを管理しているのだから、文句なくそれ以上に素晴
らしい」
   西瓜を見事に切り割った恭之介。恭之介の光る頭。
  正也M「更には、光を発する禿げ頭のじいちゃんに至っては、失われた日本古来の精神を重
んじる抜きん出た逸材で、そうはいないと
       思える」

○ もとの離れ 昼
   恭之介の部屋の定位置で熟睡する正也。蝉しぐれ。目覚める正也。枕元に置かれた鉄道
模型セットの箱に気づく正也。手に取り、喜
   ぶ正也。駆けだす正也。
  正也M「気にはなったが、枕元の箱はそのままにして寝入ってしまい、起きると欲しかった鉄
道模型セットの箱が存在した。ここはひと
       言、愛想を振り撒かねば…と思えた」

○ 居間 昼
   長椅子に座り、本を読みながらカルピス・ソーダを飲む恭一。喜び勇んで駆け入る正也。
  正也  「父さん…有難う!(笑顔で、可愛く)」
  恭一  「ん? ああ…(シャイに)」
   離れから着替えを持って現れた恭之介。正也が持つ箱に気づく恭之介。足を止める恭之
介。   
  恭之介「正也、買って貰えたようだな。・・よかったな(弱々しく)」
   ふたたび歩き出し、洗い場へ向かう恭之介。
  正也M「じいちゃんは、洗い場で身体を拭く為に来たのだが、それだけを流れる汗で弱々しく
云うと、父さんには何も云わず、通り過ぎ
       た」
   台所から声を投げる未知子。
  [未知子] 「お義父さま、お身体をお拭きになったら、西瓜をお願いしますわ」
  恭之介「オッ! 未知子さん。それを待っていました(元気な声に戻り)」
  正也M「俄かに、じいちゃんの声が元気さを取り戻した。やはり、達人はどこか違う…と思っ
た。平和と温もりを感じる我が家の一コマ
       である」

○ エンド・ロール
   よく冷えた西瓜。
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O

※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「夏の風景 特別編(上) 平和と温もり」 をお読みさい。


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残月剣 -秘抄- 《教示①》第十三回

2010年02月24日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《教示①》第十三回
 円広寺の鐘も遠方の為、耳を欹(そばだ)てないと聞き逃す微音だったから、左馬介にとっては、恐らくその頃合いとだけしか分か
らなかった。
 足元が悪く、ゴツゴツと起伏に富む洞窟を少し進むと、まず通路は左右に分岐した。しかし左馬介が迷うことはなかった。というのは、既に幻妙斎が翳(かざ)した蝋燭が通路を明々と照らしていたからである。それ故、左馬介としてはその灯りを頼りに進めばよかったのである。幻妙斎は来たる月に洞窟へ来るよう自分に云ったことを憶えていた…と、左馬介は或る種の心の昂(たかぶ)りを覚えるのだった。そして奥へ奥へと無心に進んでいく。春先だが山腹の外気は晩冬の冷たさを含んでいた。それが今、更に洞窟へと分け入っているのである。左馬介は次第に疼くような冷えを全身に感じつつあった。だが上手くしたもので、左馬介は身体に
襲いかかる苦痛をそう永く感じないで済んだ。
 五十数歩、左馬介が足を進めた時、洞窟に響く聞き馴れた声
が耳を捉えた。正(まさ)しくそれは幻妙斎の声であった。
「よう参ったのう。もう少しじゃ…。儂はすぐ近くにおる。朝早うか
ら首を長うして待っておったぞ…」
 辺りに谺して響く掠れ声は、どこか神懸っていた。


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