水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

シナリオ 夏の風景(第七話) カラス  <推敲版>

2010年02月19日 00時00分01秒 | #小説

 ≪脚色≫

      夏の風景

      
(第六話)カラス <推敲版>            

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]


 (回想) 玄関 外 早朝
   ラジオ体操から帰ってきた正也。玄関戸を開け、内へ入る正也。玄関戸からゴミ袋を提げ、外へ出
る未知子。
  未知子「気をつけてね(機嫌よく)」
  正也  「うん!(可愛く)」
   玄関内にある犬小屋のポチがクゥーンと鳴く。玄関戸を閉め、家を出ていく未知子。玄関の外景。
   O.L

○ もとの玄関 外 早朝
   O.L
   玄関の外景。
   帰ってきた未知子。出た時とは違い、かなり機嫌が悪い未知子。
  正也M「今朝は母さんの機嫌が悪かった。その原因を簡単に云うと、全てはカラスに、その原因が由
来する」

○ メインタイトル
   「夏の風景」

○ サブタイトル
   「
(第七話) カラス」

○ 台所 朝
   食卓テーブルの椅子に座り、新聞を読む正也。玄関から炊事場に入り、朝食準備を始める未知子、何
やら呟いて愚痴っている。耳を欹
   (そばだ)てる正也。
  正也M「入口で擦れ違った時の母さんは、普段と別に変わらなかった。でも、戻って以降の母さん
は、様相が一変していた」
  [未知子] 「ほんと、嫌になっちゃう!…(小声で)」
   読むのを止め、さらに耳を欹てる正也。
  [未知子] 「誰があんなに散らかすのかしら!(小声で)」
  正也  「母さん、どうしたの?(心配そうに)」
   格好の獲物が見つかったという目つきで、正也を見据える未知子。
  未知子「正也、ちょっと聞いてよっ!」
  正也M「僕は、『いったいなんだよぉ…』と、不安になった。長くなるから簡略化すると、要はゴミの散乱
が原因らしい」
   離れから現れる恭之介。正也の隣の椅子に座る恭之介。
  恭之介「未知子さん、飯はまだかな…(炊事場の道子を見遣り)」
   鼻息を弱め、俄かに平静を装う未知子。
  未知子「はい、今すぐ…」
  正也M「母さんの鼻息は弱くなった。いや、それは納まったというのではなく、内に籠った、と表現した
方がいいだろう」
   小忙しくネクタイを締めながら食卓へ現れる恭一。正也の対面の椅子へ座る恭一。トースト、ハム
エッグ、サラダ、卵焼き、味噌汁、
   焼き魚などを次々に運ぶ未知子。それを次々に手際よく並べる正
也。無言で両手を合わせ、誰からとなく食べ始める三人。
  未知子「あなた、いったい誰なのかしら?(運びながら、少し怒りっぽく)」
  恭一 「ん? 何のことだ?(新聞を読みながらトーストを齧って)」
   箸を止める恭之介。
  未知子「いえね…、ゴミ出しに行ったら散らかし放題でさぁ、アレ、なんとかならないの?(ようやく椅
子に座り)」
  恭一  「ああ…ゴミか。ありゃ、カラスの仕業さ。今のところは、どうしようもない。その内、行政の方で
なんとかするだろう…」
  未知子「それまで我慢しろって云うの?(不満げに)」
  恭一  「仕方ないだろ、相手がカラスなんだから」
   見かねて声をかけ、割って入る恭之介。
  恭之介「おふた方、まあまあ。…なあ、未知子さん。カラスだって生活があるんだ。悪さをしようと、やっ
てるんじゃないぞ。熊野辺りで
   は、カラスを神の使いとして崇めると聞く。まあ、見なかったこ
とにしなさい。それが一番!」
   恭之介を見遣る三人。タマが、仰せの通りと云わんばかりにタイミングよく、ニャ~と鳴く。
  正也M「じいちゃんにしては上手いこと云うなぁ、と思った。でも、散らかる夏の生ゴミは臭い」
  恭一  「父さんの云う通りです。蚊に刺されて痒い思いをするのに比べりゃ、増しさ(笑って)」
  恭之介「あっ、恭一、いいこと云った。殺虫剤、忘れるなよ」
  恭一  「分かってますよ、父さん…(小声になり)」
  正也M「薮蛇になってしまったと、父さんは萎縮してテンションを下げた」

○ エンド・ロール
   逃げるようにそそくさと立ち上がり、出勤していく恭一。食事を続ける三人。
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O

 ※ 短編小説を脚色したものです。小説は、
「短編小説 夏の風景☆第七話」
をお読み下さい。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

残月剣 -秘抄- 《教示①》第八回

2010年02月19日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《教示①》第八回
幻妙斎に対峙した過去の幾度(いくたび)かの経緯(いきさつ)でも、
そうしたことは皆無であったこともある。
「…動かずともよい。楽にして、これから申すことを聞くがよい」
 動こうとしても左馬介は動けないのである。どういう訳か、幻妙斎は、既にそのことが分かっているかのような口ぶりで静かにそう告
ると、話を続けた。
「この儂(わし)も、もう歳じゃて…。孰(いず)れは道場を閉ざさねばならぬであろう。それ迄に御事には皆伝を授けようと思おておる。よって、来たる月より各日、妙義山に参れ。儂は山道途中の洞窟で待つことにしよう。そのことは長谷川に伝えおく。儂の眼に適(かの)うたのは、そなた一人しかおらぬ故じゃ
…」
 その時、身体の自由が利き、束縛から逃れられたように左馬介は感じた。それは幻妙斎の言葉が静かに途切れるのと同時であった。自分に皆伝を授けようと確かに幻妙斎は云ったのだ。いや、そうに違いない。左馬介が上半身を急いて起こすと、既に幻妙斎の姿は部屋内には無く、忽然と消えていた。燭台が消えた暗闇で、灯りとなるのは僅かに漏れ入る月明かりのみである。確かに見た、聞いたと思ったものは、夢に現れた幻覚や幻聴だったのか…。馬介は不可解であった。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする