近頃は都会へ流れる人の数が増えている。そうなると当然、地方で生活する人の数は減少する。困ったことだが、これだけはどうしようもない。全国を平均人口にする・・という都合のいいことは不可能だからだ。最近、都会から地方に引っ越してきた鯛焼(たいやき)にはこの理屈が分からなかった。鯛焼にすれば、住みにくい都会へと出て行く若者の気持が量(はか)りかねた。確かに流行や最先端の暮らし向きが都会にはある。だがその反面、雑然とした人間模様と気を抜けない危険性を孕(はら)んでいる・・それが都会だ…と鯛焼は思うのである。甘い気分で長閑(のどか)にのんびり暮らしたい鯛焼にすれば、都会は決して甘く思えなかった。
鯛焼の近所に住む餅波(もちなみ)が夜になり、鯛焼の家を訪れた。
「鯛焼さん! そろそろ、どうです?」
「えっ? なんでしたか?」
「いやだな。この前、お願いした味噌講(みそこう)ですよ」
「味噌講? なんです、それは?」
「ははは…またまた。この前、訊(たず)ねられたから説明したじゃないですか」
味噌講は鯛焼が引っ越してきたこの地方に昔から続く風習で、回り番で各家が味噌料理で村人達を持て成す講だった。引っ越して数年は村人も遠慮していたが、一年ほど前、鯛焼の家にも声がかかったのである。鯛焼はそのことを、すっかり忘れていた。
「いや、うっかり忘れてました。そのうち、いずれ…」
鯛焼は地方も甘くないな…と思った。鯛焼きは甘くて美味(おい)しいが、世の中はどこに住んでも、そう甘くはないのである。
完