水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

隠れたユーモア短編集-12- 馬鹿でいい

2017年07月31日 00時00分00秒 | #小説

 

 最近の世の中、どうかしてるぞっ! と町役場の財政課長、麦田は一人、怒っていた。1種の国家試験を合格したが頭がいい超エリート達は、いったい国家財政を考えてるのかっ! と益々、麦田の怒りは大きくなった。
「どうしたんです、麦田さん? そんな赤ら顔をされて…」
 会計課の課長補佐、稲作(いねさ)が怪訝(けげん)な顔つきで麦田を窺(うかが)った。
「なんだ、稲作じゃないかっ! 久しぶりだな」
 麦田はバツ悪く、少し取り乱して言った。同じ大学出身の麦田と稲作は先輩後輩の間柄(あいだがら)で、古い付き合いだった。
「なに言ってんですっ。三日前、飲みに行ったじゃないですか」
「ははは…そうだったか?」
「はい。で、何をそんなに?」
「まあ、聞いてくれ稲作」
「はい…」
「俺は馬鹿でよかったよ。馬鹿でいい。ああ、馬鹿でいいんだ」
「なんのことです?」
「来年の国の当初予算、また増えたろ?」
「…ええ、らしいですね。それがなにか?」
「国のやつら、ほんとに国の先を考えてるのかねぇ~? 頭がいいのに、だぜ? やつらはっ!」
「そんなこと、私に言われても…。まあ、それはそうですが…」
 先輩を立てたのか、稲作は麦田に、ひとまず同調した。
「だろ? やつらは超エリートのキャリアだぜ! 御前崎や潮岬の灯台じゃねえんだっ!」
「上手(うま)いこと言いますねぇ~。はい! 犬吠崎でもありません!」
「俺は、ここの課長程度の馬鹿に生まれてよかったよっ!」
 麦田が勤める町役場は前年度決算で、今年も黒字を計上していた。頭のよさが隠れた程度の馬鹿でいいのだ。いや、そんな馬鹿がいいのである。

                              

 ※ 本作はフィクションであり、この作品中に登場した御前崎、潮岬、犬吠崎は、決して現存する某有名大学を冒涜するものではないことを申し添えます。
                             作者


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