水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

困ったユーモア短編集-99- 受け皿

2017年07月18日 00時00分00秒 | #小説

 選挙が終わってみると、結果は芋川(いもかわ)が予想したとおりだった。芋川はどう予想していたのか? それは次のようなものである。野党は一枚岩ではなく政府与党の受け皿になるだけの政権担当能力を具備していない。だとすれば、どうなのか・・である。国民は政治に対してほんのひと握りの期待も抱(いだ)けなくなる。これは表面上に現れないメンタルな諦(あきら)めの境地だ。さらに芋川はアレコレと巡った。諦めれば当然、投票行動が萎(な)えたり、まあ、現状のままでいいか…といった投げやりな発想を抱く者も増す。すると結果は、どうなる? 野党は勝てないだろう…。これが芋川の結論的な予想だった。そして終わってみれば、やはり芋川が出した予想は、芋を食べればガスが出るように当たっていたのである。芋川にとっては臭(くさ)く、当たって欲しくない予想だった。だが、奇跡は起こらず終(じま)いだった。受け皿がないと高所から転落した国民は死ぬ危険が大きい。いや、それどころか、必ず死に至るだろう。そうなることを未然に防止する受け皿はセフティネットだが、せめて命綱をつけて下りないと崖下(がけした)へと転落してしまう。芋川の脳裏にふと、かつて登った雪渓(せっけい)を残す夏山の雄姿(ゆうし)が甦(よみがえ)って浮かんだ。

                         


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする