人は誰も最後を満足できる結果で終わりたいと思う。有終の美である。このグッドなエンドを求め、人はバッド・エンドに終わる最悪のシナリオから逃れようとするのだ。そして今日も、この男、獅子唐(ししとう)は、その挑戦を続けていた。
「どうして君は、こうなんだろうね…。まともな報告書を見せてくれたことは一度もないじゃないか」
「さあ、どうしてなんでしょうね?」
「君が訊(き)いてどうするんだ。私が訊いてるんだから」
「はあ…私としても今回は有終の美を飾ろうとはしたんですけれど…」
「有終の美? そんなものは夢物語だ、これじゃ…」
課長の鞘豆(さやまめ)は、部下の獅子唐の目の前で報告書を散らつかせながら、やや強めの口調で言った。獅子唐にしても、なにもバッド・エンドでは終わりたくない訳である。いや、それどころか獅子唐は心から、今度こそ有終の美で終わろう…と決意していたのだ。収穫され、課長の鞘豆から美味(おい)しいお褒(ほ)めの言葉の一つも頂戴(ちょうだい)できれば…というのが、偽(いつわ)らざる獅子唐の本音だった。だが今回も、その願いは虚(むな)しく徒労(とろう)に帰したのである。
「はあ…」
「君の場合、有終の美はいいから、とにかく間違えはなくすように…」
「はい! 分かりました…」
「これは私がやっておくから、もう、席へ戻(もど)ってよろしい」
鞘豆の言葉を聞き終えたあと、獅子唐は冷蔵庫の中のいつもの席へと戻った。
完