水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

困ったユーモア短編集-82- 確定層

2017年07月01日 00時00分00秒 | #小説

 選挙が行われようとしている。まあ、するならすればっ! くらいに軽く思っている人は無関心層と呼ばれる。こういう人々は、ある意味で気楽だ。別に投票しなくても…程度の気分だからだ。はっきり決まっている確定層の人も同様に気楽である。そこへいくと、無党派層と呼ばれる人々は、困ったことに誰に投票するか迷うことになる。神経質な人なら迷いに迷い、やせ細ることに・・はならないだろうが、困った気分にはなるだろう。幸い、[ダレソレ]に投票したという内容が他人には分からないから、こういった人々は助かっているのだ。
 とある投票所の出口である。
「○○新聞社です。どちらを?」
 無党派層の鮭熊(さけくま)は唐突(とうとつ)に記者風の男から声をかけられ、戸惑(とまど)った。立ち止まり、記者の顔を見ながら対峙(たいじ)すると、『誰でもいいだろうがっ!』と、急に腹立たしい気分に苛(さいな)まれた。そう言おうとしたが、投票を済ませた他の人が通り過ぎ、結局、それが気になってグッ! と我慢せざるを得ず、思うにとどめた。
「すみません! 他の人に聞いてくださいっ!!」
 記者にそう返すのが関の山で、鮭熊は悪いことをしたかのように、その場から立ち去った。人の姿が見えなくなるまで遠退(とおの)いたとき、鮭熊は急に逃げ去った自分自身が腹立たしくなった。鮭熊は瞬間、誰に投票したか堂々と言える確定層になろう! …と心に決めた。

                         完


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