朝から月見(つきみ)は項垂(うなだ)れていた。昨夜、上手(うま)くいかなかったパソコン設定を、よしっ! 明日の朝はやるぞっ! と、早く寝て起きたまではよかったのだ。それが、早くも昼近くになっていた。朝一で食べずに始めたものだから、すでに空腹は限界に達していた。仕方なく、冷蔵庫から家庭菜園で収穫したキュウリをパリポリと齧(かじ)りながらパソコン画面との格闘である。俺は河童(かっぱ)かっ! と、つまらないところで自分に腹立つ月見だった。解決の方法をパソコン検索で探ったが、なんとも、ややこしい・・のである。まったく要領を得ず、月見はよく知っているパソコン修理部の堅餅(かたもち)に相談しようと電話しようとした。堅餅はとある会社の修理センターの現場技術員として働いている。連絡するには、まず会社に電話をかけ、堅餅を呼び出さねばならない。
『おかけになった内容が修理に関する場合はダイヤルの[1]を、製品に関するご相談の場合は[2]を、その他のお問い合わせの場合は[3]を、お急ぎのご連絡の場合は[4]をお押しください。なお…』
瞬間、月見はややこしい…と思った。だが愚痴っていても仕方ないから、よしっ! お急ぎだっ! と、[4]を押した。
『ご連絡の内容が製品内容の場合は[1]を、会社への一般連絡の場合は[2]を、業務連絡の場合は[3]をお押しください』
月見はどれでもなかったから、困った。そして、ややこしい…と電話を切ろうとしたが、まあ、一般連絡か…と、とりあえず[2]を押した。
『ただいま、オペレーターにお繋(つな)ぎいたします』
案内嬢のメッセージが、いい声で流れた。月見は、よしっ! これで…と応答を待った。だが、月見の読みは甘かった。いつまで経(た)っても回線の呼び出し音だけで、肝心のオペレーターが出ないのである。
『ただいま、回線が混み合っております。おかけ直しいただくか、このまましばらくお待ちください』
月見は無言で電話を切った。世の中は、ややこしい…と、パソコンもOFFにすると、月見は外へと出た。空(す)いた腹が、それが正解! と言うのを月見は感じた。
完