水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

隠れたユーモア短編集-11- 中ほど

2017年07月30日 00時00分00秒 | #小説

 ものごとは中ほどがいいとされる。━ 中庸(ちゅうよう)をもって良しとす ━ などととも言われるが、中ほどには宥(なだ)め役のような隠れた妙味(みょうみ)がある。労使間では仲裁委員会があり、労使の仲を取り持つが、それなども一つである。他にも接着剤、溶接機、仲人などといった、別の2体をなんとかくっつけたり、取り持ったりする存在がある。孰(いず)れも別の2体の融和や接着、接続などをする中ほどの役割を果たす。
「偉(えら)いことになりましたっ! 課長」
「んっ? ど、どうしたんだっ!?」
「実は…トラブルで妻が家を出たんですっ! ぅぅぅ…このままでは離婚ですっ!」
「偉いことじゃないかっ、君! で、仲人の私という訳か?」
「はいっ! 縋(すが)るのは課長をおいては…ぅぅぅ…」
「泣くなっ、君。まだ、新婚1年だぞっ! で、原因はっ!?」
「妻はアイスで、僕はソフト派なんですっ!」
「…なんだ、それは?」
「クリームです」
「クリーム!!」
 課長は馬鹿馬鹿しくなり、声を高めた。他の課員達の目が、一斉(いっせい)に課長席へ注(そそ)がれた。
「…ともかく、私が話してみよう」
「お、お願しますっ! ぅぅぅ…」
「泣くな、君! 皆が見てるっ! まるで私が君を苛(いじ)めてるみたいじゃないかっ!」
「す、すみません! よろしくお願いしますっ!」
 次の日の朝である。
「実家へ電話はしたんだがね…。どうも、今一。申し訳ないっ!」
「ああ! もういいんです、課長。カキ氷にすることにしましたので、さっき解決しました」
 課長はポカ~ンとした。カキ氷が中ほどなのだ。

                              


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