水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

シナリオ 夏の風景 特別編(上) 平和と温もり(1) <推敲版>

2010年02月23日 00時00分01秒 | #小説

 ≪脚色≫

      夏の風景

       特別編
(上)平和と温もり(1) <推敲版>     

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]
 
  その他   ・・丘本先生、生徒達、猫のタマ、犬のポチ

○ 湧水家の遠景 昼
   屋根の上の青空に広がる遠い入道雲。蝉しぐれ。

○ 洗い場 昼
   麦わら帽子を被り、水浴びする正也。日蔭で涼むタマとポチ。湧き水の涼風が流れる日蔭。
心地よく眠るタマ。正也を、『元気なお方
   だ…』と云わんばかりに見遣るポチ。灼熱の太
陽。蝉しぐれ。
  正也M「また夏がやってきた。そんなことは云わなくても巡ってくるのが四季なのだし、夏な
のである。じいちゃんが剣道で僕に云う、
       “自然体”って奴だ。…少し違うような気も
するが、まあ、よしとしよう」
   恭之介が現れる。上半身の着物を脱ぎ、手拭いを湧水に浸けて拭く恭之介。
  恭之介「ふぅ~! 生き返るなぁ…(しみじみと漏らし)」
   各自、冷水を堪能する二人。

○ メインタイトル
   「夏の風景」

○ 
サブタイトル
   「特別編
(上) 平和と温もり」

○ 台所 昼
   四人が食卓テーブルを囲み西瓜を食べている。テーブルに乗る切り分けられた俎板上の
西瓜。賑やかに展開する家族の雑談。
  恭之介「昔は三十度を超えりゃ、この夏一番のナントカとか云っとったんだがなあ、ワハハハ
ハハ…」
   豪快に笑い、西瓜を頬張る恭之介。細々と一切れに噛りつく恭一。
  恭一  「そうですねぇ。真夏日は、確かあったようですが、猛暑日というのは、なかったです
から…。当時は涼しかったですよね」
  未知子「ええ、そういえば、以前は日射病って云ってましたわ。今は熱中症とかで大騒ぎ(西
瓜を手にして)」
  恭之介「はい…。未知子さんの云う通りです」
  正也M「今日も見たところ、じいちゃんは母さんに“青菜塩”である。夏休みの到来は、今年も
僕に恩恵を何かにつけて与えてくれそう
       である。その予兆が先だっても湧き上った」
   
台所に掛かった ━ 極 上 老 麺 ━ の額(がく)
   O.L

○ (回想) 台所 朝
   O.L
   台所に掛かった ━ 極 上 老 麺 ━ の額(がく)。
   朝食を慌ただしく食べ終えた恭一が、席を立つ。腕時計を見つつ、出勤時間を気にしつつ玄
関へ向かう恭一。   
  未知子「あらっ? あなた、ネクタイは?」
   立ち止まって、振り返る恭一。
  恭一  「ん? クール・ビズだからネクタイはいいんだ」
  未知子「あら、そうだったわ…」
  正也M「父さんの会社も半袖ワイシャツにノーネクタイの所謂(いわゆる)、エコ通勤へと切り
替わった。汗掻きの父さんは大層、喜んで
       いる」

○ (回想) 玄関 内 朝
   慌ただしく靴を履く恭一。通りかかり、立ち止まる恭之介。玄関へ出てきた登校する正也。
  恭之介「なんか…お前の格好は腑抜けに見えるな」
  恭一  「…」
   一瞬、二人を見遣る正也。黙って戸外へ出る恭一。靴を履く正也。
  正也M「父さんは口を噤(つぐ)んで、敢えて反論しようとはしない。反論すれば必ず反撃され
る…と、読んでいる節がある。縁台将棋
       で二手先を必死に読む程度の父さんにして
は大したものだ」
   台所へと消える恭之介。玄関を出ようとする正也。外から引き返した恭一が戸を開ける。犬
小屋のポチが、『何事だ! 朝っぱらか
   ら…』と云わんばかりに、薄目を開けて、ワン! 
と、ひと声、小さく吠え、また目を閉じる。
  恭一  「おいっ! 正也、まだ。いるかっ?!(少し怒り口調の大きめの声で)…おお、いた
か。(冷静になって)この前、云ってたラジコ
       ン模型な。ボーナスが出たら夏休みに買
ってやるからなっ!(少し威張り口調で)」
  正也  「うん! 有難う。楽しみにしてる。じゃあ、遅刻するから、もう行くよ!」
  恭一  「おっ? おお…(拍子抜けして)」
   戸外へ出る正也。ポチが小さく、クゥ~~ンと鳴く。

○ (回想) 玄関 外 朝
   家から遠ざかる正也の歩く姿。
  正也M「まあこのような、僕にとっては恩恵を与えてくれそうな幸先がいい予兆だった。しかし
半面には、夏休みが始まっても買って貰
       えないといった不吉な事態も有り得る訳
で、油断は禁物なのだった」

○ (回想) 学校 昼
   正也の教室の授業風景。教壇に立つ丘本先生がホームルームで何やら話している。生徒
達の中にいる正也。    
  正也M「自慢する訳ではないが、僕は校内トップか二番の好成績で、丘本先生に見込まれて
いるのだ。両親とも、そのことは知ってい
       るから、成績のことは諄々(くどくど)とは云
わない。但し、母さんは、勉強しなさい…とは口癖のように云うのだが…。好成績
       で
も、これだけは別で、母心としては、やはり安心出来ないのだろう」

                                     ≪つづく≫


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残月剣 -秘抄- 《教示①》第十二回

2010年02月23日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《教示①》第十二回
 妙義山にある幻妙斎の籠る洞窟は、登り口より約四半時ばかりの所に位置した。既に陽気は春の候で、空には草雲雀(ひばり)が飛び交い高く囀(さえず)っていた。結局のところ左馬介は稽古着上に、もう一枚、薄手を羽織り出立していた。春先とはいえ、少し登った山腹には未だ冷気が漂っているように思えたの
である。
 嘗(かつ)て登った経験のある左馬介は、そう迷うといったこともなく妙義山へと分け入った。地の者が間伐、薪(たきぎ)拾い、そして、食用茸(きのこ)を採る為に設けた山道が、細々とではあるが鮮明に上へ上へと続いている。躊躇(ちゅうちょ)することなく左馬介は先を急いだ。道場を出る前に厨房で握り飯を三ヶ、竹の皮に包み、沢庵二切れを握り飯の隙間へと挟んで持参していた。これで夕刻までは充分に腹具合が保てるだろう…という稚拙な算段である。妙義山の洞窟は葛西の者ならば誰もが知っている。ただ、その中は迷路のように入り組み、一度(ひとたび)迷えば、恐らくはふたたび外へ出ることが至難の業と思える要害の洞窟であった。それ故、地の者達は余程のことがない限り中へ入ることはなく、幻妙斎以外に地の利に長(た)けた者はないようであった。その洞窟へ左馬介が分け入ったのは、予定していた辰の上刻である。勿論それは、陽射しの角度による左馬介の憶測であった。


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シナリオ 夏の風景(第十話) 昆虫採集  <推敲版>

2010年02月22日 00時00分01秒 | #小説

 ≪脚色≫

      夏の風景

      
(第十話)昆虫採集 <推敲版>          

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]
   その他   ・・猫のタマ、犬のポチ

○ 子供部屋 朝
   机に向かい、夏休みの宿題をしている正也。蝉の声。手を止め、窓向こうの庭を見遣る正
也。
  正也M「まだ当分は残暑が続きそうだ。でも、僕はめげずに頑張っている。夏休みも、もう残り少な
い」
   畑から恭之介が帰ってくる。手に西瓜を持つ恭之介、麦わら帽子を頭から取り、木の枝に吊
るす。笑顔で西瓜を撫でる恭之介。出来の
   いい西瓜と恭之介の頭。双方ともに、太陽光線を
受けて、眩しく光る。思わず噴き出す正也。子供部屋に響く正也の大笑いの声。そう
   とは知
ずに西瓜の出来に満足そうな笑みを湛える恭之介。T 「0」→「09」→「09:」→「09:0」
→「09:00」(SE[タイプライター
   で打ち込む音])

○ メインタイトル
   「夏の風景」

○ サブタイトル
   「
(第十話) 昆虫採集」

○ 洗い場 昼
   水浴びを終え、離れに向かう正也。

○ 離れ 昼
   洗い場から離れに入る正也。
  正也M「昼過ぎ、いつもの昼寝の時間がきた。この時間は決して両親や、じいちゃんに強制
されたものではない。自然と僕の習慣とな
       り、小さい頃から慣れのように続いてき
た。だが、この夏に限って、じいちゃんの部屋だから、我慢大会の様相を呈している
       
(◎に続けて読む)」
   恭之介の部屋へ入る正也。いつもの場所で眠り始める正也。T 「1」→「14」→「14:」→
「14:1」→「14:10」(SE[タイプライター
   で打ち込む音])
   
正也の寝顔。
   O.L

○ 離れ 昼
   O.L
   正也の寝顔。
   熟睡する正也の少し離れた所で熟睡する恭之介。T 「1」→「15」→「15:」→「15:0」→
「15:00」(SE[タイプライターで打ち込む
   音])
  正也M「今日は、どういう訳か、じいちゃんの小言ブツブツや団扇バタバタ、がなかったから、
割合、よく眠れた」
   O.L

○ 離れ 昼
   O.L
   目覚めて半身を起こす正也。両腕を伸ばし欠伸をする正也。少し離れた所で熟睡する恭之
介。T 「1」→「15」→「15:」→「15:4」
   →「15:40」(SE[タイプライターで打ち込む音])

○ 玄関 外 昼
   麦わら帽、水筒、長靴姿の正也。昆虫採集網を持って走り出る正也。聞こえてくる未知子の注
意を喚起する声。T 「1」→「16」→「1
   6:」→「16:1」→「16:10」(SE[タイプライターで
打ち込む音]) 
  [未知子] 「帽子かぶったぁ~! 熱中症に気をつけなさい!」
  正也  「はぁ~~い!(戸を閉めながら、可愛く)」
   やや離れた日陰の洗い場に見えるミケとポチが涼む姿。心地よく眠るミケ。身を伏せた姿勢
で目だけ開け、『このクソ暑い中を、どこ
   へ行かれる…』という目つきで、出かける正也を見
守る少しバテぎみのポチ。
  正也M「四時前に目覚めた僕は、朝から計画していたクワガタ採集をしようと外へ出た」

○ 雑木林 昼
   慣れたように雑木林に分け入る正也。数本のクルミの木。半ば朽ちたクルミの木の前で立
ち止まり、木を見上げる正也。T 「1」→
   「16」→「16:」→「16:3」→「16:30」(SE[タ
プライターで打ち込む音]) 
  正也M「虫の居場所は数年前から大よそ分かっていた。夜に懐中電灯を照らして採集するの
が最も効率がいいのだが、日中も薄暗い
       雑木林だから、昼の今頃でも大丈夫だろう
と判断していた」
   木を眺めながら、クワガタを探す正也。草むらがザワザワと動く。ギクッ! と驚いて草むら
を見遣る正也。姿を現す恭之介。
  正也  「じいちゃんか…。びっくりしたよぉ(安心して)」
  恭之介「ハハハ…驚いたか。いや、悪い悪い。母さんが虫除け忘れたからとな、云ったん
で、後(あと)を追って持ってきてやった。ホ
       レ、これ(虫除けを示し)」
   正也の首に外出用の虫除けを掛けてやる恭之介。
  恭之介「どうだ…、いそうか?」
  正也  「ほら、あそこに二匹いるだろ(木を指し示し)」
  恭之介「いるいる…。わしも小さい頃は、よく採ったもんだ」
   恭之介の話を無視して動き出す正也。
  正也M「じいちゃんには悪いが、昔話に付き合っている訳にもいかないから、僕は行動した」
   静かに木へ近づき、やんわりと虫を掴む正也。その虫を籠の中へポイッと入れる正也。
  恭之介「正也、その朽ちた木端(こっぱ)も取って入れな。そうそう…その蜜が出てるとこだ」
   恭之介の云う通り、樹液で半ば朽ちた木端を取り、虫籠へ入れる正也。雑木林に響く蝉し
ぐれ。

○ とある畔道 昼
   とある田園が広がる中の畔道を歩く帰宅途中の恭之介と正也。T 「1」→「17」→「17:」→
「17:0」→「17:00」(SE[タイプライタ
   ーで打ち込む音])
  恭之介「なあ正也、虫にも生活はある。お前だって、全く知らん所へポイッと遣られたらどうす
る。嫌だろ? だからな、採ったら大事に飼
       ってやれ。飼う気がなくなったら、元へ戻
してな…」
  正也M「じいちゃんの云うことは的(まと)を得ている」

○ 台所 夜
   食卓のテーブルを囲む四人。夕食中。T 「1」→「19」→「19:」→「19:0」→「19:00」(S
  
E[タイプライターで打ち込む音])
  恭之介「ははは…、正也も、なかなかやるぞぉ~」
  恭一  「そうでしたか…(小笑いし)」
  恭之介「お前の子供の頃より増しだ」
   しまった! と、口を噤(つぐ)んで下を向く恭一。
  正也M「じいちゃんは手厳しい。父さんは返せず、口を噤んで下を向いた。今年の夏が終わろ
うとしていた」
   SE[タイプライターのチーン!という音])

○ エンド・ロール
  湧水家の夜の全景。
  テーマ音楽
  キャスト、スタッフなど
   F.O

※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「短編小説 夏の風景☆第十話」 をお読み下さい。


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残月剣 -秘抄- 《教示①》第十一回

2010年02月22日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《教示①》第十一回
「寂しくなりますね…」
「ははは…。今迄でも充分に寂しいではありませんか。それにな云い方ですが、各日いないということは、逆に考えれば各日は
いる、ということです」
「あっ! そうでした。それはそうです…」
 話が途切れ、二人は同時に笑い出した。久しくなかった笑声が厨房の中に響いて谺(こだま)した。鴨下も長谷川と同じく、それ上は深く訊かなかった。それも道理で、左馬介が道場から消えてしまう…とうことはないのだ。ただ、日々見られた顔が各日となるのは、どうしようもない。その程度なのだから、長谷川や鴨が深く追究しない訳である。当然、左馬介がいない日は、師範の長谷川も立って観ていることは出来ず、下手な鴨下組稽古をしな
ければならない。そのことは分かっている二人である。
 事も無げに梅見の宴も終わった。そして十日ばかりが瞬く間に流れ、幻妙斎の云った月初めが巡った。左馬介は二人に告げることなく早暁の暗闇に出立した。妙義山までは堀江道場から平坦路で五町ばかりだが、山の麓(ふもと)から登山道を歩めば、思いのほか時を要することを左馬介は知っている。以前、他意もなく漠然と登りたいと思え、そうしたこともあった。


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シナリオ 夏の風景(第九話) ナス  <推敲版>

2010年02月21日 00時00分01秒 | #小説

 ≪脚色≫

      夏の風景                       
      
(第九話) ナス <推敲版>                                  
    登場人物

   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]
 
  その他   ・・大工の留吉

○ 離れ 昼
   恭之介の部屋で昼寝する正也。蝉しぐれ。屋外は猛暑。
  正也M「僕はじいちゃんの部屋で昼寝を余儀なくされている。その訳は、家の母屋が改造中なのだ。
今でいうリフォームってや
       つで、請負った同じ町内に住む大工の留吉さんが、四六時中、出入りをし
ている(◎に続けて読む)」

○ (フラッシュ) 改造中の子供部屋 昼
    金槌で釘を打つ留吉。かなり散らかった子供部屋。
  正也M「(◎)離れで寝ている訳は、工事の騒音で安眠できないからだ(◇に続けて読む)」

○ (フラッシュ) 母屋の各部屋 昼
   湧水家の台所、居間、奥の間、浴室、洗面所…などの光景。どの部屋でも聞こえる釘を打つ音。
  正也M「(◇)僕の家は昔に建てられた平屋家屋だから、まず母屋の、どの場所に寝ても、騒音は
防ぎようがないのだ(△に続
       けて読む)」

○ もとの離れ 昼
   恭之介の部屋で昼寝する正也。蝉しぐれ。
  正也M「(△)そんなことで、別棟の離れで昼寝となった訳だが、じいちゃんが扇風機やクーラーを使
わないものだから、大層、
       迷惑していた」

○ メインタイトル
   「夏の風景」

○ 
サブタイトル
   「
(第九話) ナス」

○ 台所の裏口 朝
   裏口の戸を開け、作業着姿の留吉が元気に入って来る。スリッパに履き換え、台所へ上がる留
吉。 
  留吉  「今日も暑くなりそうですなぁ、奥さん」
  未知子「…ええ、倒れるくらい暑いから困るわ(笑って)」  
  留吉  「ほんとに…。我々、職人泣かせですよ、この暑さは…」
   台所を通り過ぎ、子供部屋に向かう留吉。

○ 改造中の子供部屋 朝
   子供部屋へ入る留吉。直ぐに鉋(かんな)を手にして、横木を削り始める。ポットのお茶と湯呑み、
茶菓子が乗った盆を運ぶ
   未知子。未知子の尻について入る正也。
  未知子「ここへお茶、置いときますから…」
  留吉  「いつも、すいませんなぁ…(削りながら)」
  未知子「あと、どのくらいかかりますの?」
  留吉  「そうですなぁ…。まあ、秋小口には仕上げるつも
       りでおりますが…(手を止め)」
  未知子「そうですか…。なにぶん、よろしく…(頭を下げ)」
   台所へ去る未知子。そのまま留吉の作業を見遣る正也。正也を見遣る留吉。
  留吉  「正ちゃん、ほうれ…、この木屑をやろう。何か作りな(正也の手に渡し)」
  正也  「どうも、ありがとう…(留吉から受け取って)」
   渡された木屑を大事そうに持ち、部屋を走り去る正也。

○ 台所 朝
   畑から帰ってきた恭之介が道子と話している。台所へ入る正也。
  恭之介「未知子さん、今年もほら、こんなに成績がいい…(汗をタオルで拭きながら)」
   籠に入った収穫したてのトマト、ナス、キュウリなどを自慢して未知子に見せる恭之介。籠の中を見
遣る正也。
  未知子「お義父さま、助かりますわ。最近はお野菜も結構しますから…(少し、持ち上げて)」
   正也を見て、笑顔から真顔に戻る未知子。
  未知子「正也、勉強しなきゃ駄目でしょ(やや強く)」
  恭之介「そうだぞ正也。こういうふうに、いい成績をな、ワハハ…(賑やかに笑って)」
   収穫した紫色に光るナスを片手にして、示す恭之介。ふと、何か思い出したように、離れへ向かう
恭之介。
  恭之介「それにしても、あの虫除けは、よく効くなあ。全然、刺されなかった…」
   恭之介の頭とナスを交互に見る正也。
  正也M「じいちゃんの頭とナスの光沢がよく似ている…、と僕は束の間、思った。台所には、じいちゃ
んの頭ナスが、たくさんあ
       り、僕を見ていた」

○ エンド・ロール
   つやつやとしたナスの山。
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O


※ 短編小説を脚色したものです。小説は、 「短編小説 夏の風景☆第九話」  をお読み下さい。


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残月剣 -秘抄- 《教示①》第十回

2010年02月21日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《教示①》第十回
そうなれば長谷川の一人相撲である。口を閉ざさざるを得ない。左馬介は堂所へと歩き出し、長谷川もその後に続いた。
 堂所には鴨下がいて、丁度、三人の膳を調えたところだった。三人になってからというもの、厨房より堂所へ運ぶ膳の移動は左馬介と鴨下が一日交代で行っていた。詰まるところ、三膳のみだからである。準備は今迄どおり二人だが、人数が減った分、そうバタつくことも無くなった為である。今迄の喧騒が嘘のように、三人の朝餉は実に静穏である。陽気な鴨下も敢えて語ろうとはせず、左馬介もこの日は無言であった。長谷川は、ただ箸を無造作に動かせるのみだが、矢張り、つい今し方の左馬介との会話が尾を引いているようであった。来月といえば残り十日ばかりなのだが、左馬介には幻妙斎が待つ刻限などは分からない。しかし、一応の心積もりとして辰の上刻には妙義山の洞窟に着くように出よう…。それに木刀を一本持って行くか…などと心を巡らせていた。ただ、左馬介にも迷う事柄はあった。出で立ちである。道場の稽古着で出るのか、或いは山中の冷えも考慮に入れ厚着で出て、稽古着は木刀に結わえて行こうか…といった事柄であった。
 食後、左馬介が口を噤んで膳を片付けていると、左隣へ寄り添うように近づいた鴨下が小言で語り掛けた。


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シナリオ 夏の風景(第八話) 西瓜[すいか]  <推敲版>

2010年02月20日 00時00分01秒 | #小説

 ≪脚色≫

      夏の風景
 
     (第八話)西瓜[すいか] <推敲版>          

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母[(主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]
   その他   ・・猫のタマ、犬のポチ


○ 洗い場 昼
   洗い場に浸けられた西瓜。麦わら帽子を被り、水浴びをする正也。離れから出てきて洗い
場を覗き込む恭之介。恭之介を見遣る正
   也。溢れ出た水を浴び、身体を冷やすポチ。水しぶ
きの冷気が漂う日陰で涼んで眠るタマ。 
  恭之介「おお…上手い具合に、よお冷えとる…」
   タマが、そら、そうでしょう、と云わんばかりに、ニャ~と鳴き、欠伸する。

○ (フラッシュ) 洗い場 朝
   畑から帰り、洗い場へ、手に持つ西瓜を浸ける恭之介。
  正也M「朝早く、じいちゃんは、家に昔からある湧き水の洗い場へ西瓜を浸けておいた」

○ もとの洗い場 昼
   洗い場近くの樹々に蝉が集く。冷水が滾々と湧く水中の西瓜。水に浸かり、また上がる、を
繰り返し水と戯れる正也。上手い具合に、
   日影になっている洗い場。
  恭之介「どれ、力仕事の前に、ひとつ、身体でも拭くか…」
   湧き水に濡らした手拭いで、身体を拭き始める恭之介。
  恭之介「ふぅ~、気持ちいいのう…(誰に云うでなく)」
   気持ちよさそうな洗い場の二人。灼熱の輝く太陽。

○ メインタイトル
   「夏の風景」

○ サブタイトル
   「
(第八話) 西瓜[すいか]」

○   同  昼  
   水浴びを止め、タオルで身体を拭き始める正也。
  正也M「僕は昼間、洗い場で水遊びをするのが日課となっている。というのも、これからじい
ちゃんの離れで昼寝をしなければならない
       からだ。別にどこだって寝られるじゃない
か…と思うだろうが、じいちゃんの離れへ行かねばならないのには、それなりの理

       がある。それについては、後日、語ることにしよう(◎に続けて読む)」
   身体を拭き終え、衣類を身に着けている正也。
  正也M「(◎)で、そうなると、じいちゃんは電気モノ嫌いという困った癖があるから、体を充
分に冷やしておかないと眠れない訳だ。そ
        こで、昼寝前の水遊びが日課となった…
とまあ、そういうことだ」
   衣類を身に着け終え、家へ入ろうとする正也。
  恭之介「おい、正也。お前も食べるな?」
   立ち止まって振り返る正也。日陰の洗い場に腰を下ろした流れる汗姿の恭之介。
  正也  「うん!(可愛く、愛想をふり撒いて)」

○ C.I 離れ 昼
   汗だらけで団扇を忙しなくバタバタと動かす恭之介。
  正也N「じいちゃんは夏に汗を掻くのが健康の秘訣だと信じている節がある」

○ 洗い場 昼
   滾々(こんこん)と湧く水が勢いよく流れる。澄んだ水。
  正也M「この湧き水は、いったいどこから湧き出てくるのだろう…と、いつも僕は不思議に思
っている。知ってる限り、枯れたことはな
       く、滾々と湧き続けているのだ」

○ 台所 昼
   食卓テーブルに置かれた俎板。俎板の上の西瓜。包丁で今にも西瓜を切ろうとしている恭
之介。恭之介を取り囲んで見守る恭一、正
   也。見事に切る恭之介。
  正也M「家へ入ると、じいちゃんは賑やかに西瓜を割った。力の入れ加減が絶妙で、エィ! 
っと、凄まじい声を出して切り割った。流
       石、剣道の猛者(もさ)だけのことはある…と
思った」
  恭一  「父さん、私は一切れだけでいいですよ…( 遠慮ぎみに)」
  恭之介「ふん! 情けない奴だ。男なら最低、三切れぐらいいはガブッといけ!(手に持った
包丁で、切った西瓜を示して)」
   テーブルより、少し避難して離れる正也。
  正也M「じいちゃんは、包丁を持ったまま御機嫌が斜めだ。弾みでスッパリ切られては困る
が、その危険性も孕む」
   炊事場から未知子が近づく。
  道子  「お父さま、塩とお皿、ここへ置きますよ(遠慮ぎみに)」
  恭之介「未知子さん、あんたも、たんと食べなさい」
   笑って首を縦に振る未知子。

○ 台所 昼
   食卓テーブルで西瓜を食べる四人。上品に頬張る恭一。わずか四、五口で一切れ食べ尽く
す恭之介。普通に食べる未知子と正也。
   恭之介の食いっぷりに見とれる三人。
  恭之介「恭一、お前が買ってきた殺虫器な。アレは実にいい、よく眠れる…(五切れ目を手
しながら)」
  恭一 「お父さんは電気モノがお嫌いでしたよね? 確か…(暗に殺虫器は電気式だと強調
して)」
  恭之介「お前は…また、そういうことを云う。いいモノは、いいんだ!(怒り口調で)」
   顔を赤らめて怒る恭之介。恭之介を見遣る正也。
  正也M「じいちゃんも現金なもんだ…と、僕は思った。猛暑日は、今日で四日も続いている」

○ エンド・ロール
   青空に炎天下の太陽。集く蝉の声。
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O

※ 短編小説を脚色したものです。小説は 「夏の風景 ☆第八話」  をお読み下さい。


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残月剣 -秘抄- 《教示①》第九回

2010年02月20日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《教示①》第九回
それでも、あれこれと思いながら微睡(まどろ)み、早暁を迎えた。床を抜け、いつもの隠れ稽古をしようと小屋へ向かった左馬介は、未だ薄暗い堂所から小屋へと歩く中、乱れる心境の自分に気づかされた。これでは稽古にならない。軽い素振りに留め、
早めに小部屋へ戻ることにした。
 左馬介が朝餉の準備を鴨下と二人でしていると、長谷川が傍
らへと近づき、ぼそっと語り掛けた。
「先生よりの投げ文があった。来る月より左馬介が妙義山へ出
向く故、各日は稽古を外してやって貰いたいとのことだ」
 左馬介はその言葉を耳にして、幻/妙斎が枕辺へ現れたのは
夢ではなかったのだ…と、思い知らされた。
「なんだ…、さも他人事のように云うなあ」
「ええ、そうなんですよ。私も長谷川さんの今の言葉を聞く迄は夢か幻現実かが分からなかったんですから」
「ほおー、そうだったか」
 長谷川は、やや大げさに合の手を入れた。
「さあ、飯にしましょう」
「ん? おお…」
 左馬介はそれ以上、投げ文のことを訊こうとはしなかった。


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シナリオ 夏の風景(第七話) カラス  <推敲版>

2010年02月19日 00時00分01秒 | #小説

 ≪脚色≫

      夏の風景

      
(第六話)カラス <推敲版>            

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]


 (回想) 玄関 外 早朝
   ラジオ体操から帰ってきた正也。玄関戸を開け、内へ入る正也。玄関戸からゴミ袋を提げ、外へ出
る未知子。
  未知子「気をつけてね(機嫌よく)」
  正也  「うん!(可愛く)」
   玄関内にある犬小屋のポチがクゥーンと鳴く。玄関戸を閉め、家を出ていく未知子。玄関の外景。
   O.L

○ もとの玄関 外 早朝
   O.L
   玄関の外景。
   帰ってきた未知子。出た時とは違い、かなり機嫌が悪い未知子。
  正也M「今朝は母さんの機嫌が悪かった。その原因を簡単に云うと、全てはカラスに、その原因が由
来する」

○ メインタイトル
   「夏の風景」

○ サブタイトル
   「
(第七話) カラス」

○ 台所 朝
   食卓テーブルの椅子に座り、新聞を読む正也。玄関から炊事場に入り、朝食準備を始める未知子、何
やら呟いて愚痴っている。耳を欹
   (そばだ)てる正也。
  正也M「入口で擦れ違った時の母さんは、普段と別に変わらなかった。でも、戻って以降の母さん
は、様相が一変していた」
  [未知子] 「ほんと、嫌になっちゃう!…(小声で)」
   読むのを止め、さらに耳を欹てる正也。
  [未知子] 「誰があんなに散らかすのかしら!(小声で)」
  正也  「母さん、どうしたの?(心配そうに)」
   格好の獲物が見つかったという目つきで、正也を見据える未知子。
  未知子「正也、ちょっと聞いてよっ!」
  正也M「僕は、『いったいなんだよぉ…』と、不安になった。長くなるから簡略化すると、要はゴミの散乱
が原因らしい」
   離れから現れる恭之介。正也の隣の椅子に座る恭之介。
  恭之介「未知子さん、飯はまだかな…(炊事場の道子を見遣り)」
   鼻息を弱め、俄かに平静を装う未知子。
  未知子「はい、今すぐ…」
  正也M「母さんの鼻息は弱くなった。いや、それは納まったというのではなく、内に籠った、と表現した
方がいいだろう」
   小忙しくネクタイを締めながら食卓へ現れる恭一。正也の対面の椅子へ座る恭一。トースト、ハム
エッグ、サラダ、卵焼き、味噌汁、
   焼き魚などを次々に運ぶ未知子。それを次々に手際よく並べる正
也。無言で両手を合わせ、誰からとなく食べ始める三人。
  未知子「あなた、いったい誰なのかしら?(運びながら、少し怒りっぽく)」
  恭一 「ん? 何のことだ?(新聞を読みながらトーストを齧って)」
   箸を止める恭之介。
  未知子「いえね…、ゴミ出しに行ったら散らかし放題でさぁ、アレ、なんとかならないの?(ようやく椅
子に座り)」
  恭一  「ああ…ゴミか。ありゃ、カラスの仕業さ。今のところは、どうしようもない。その内、行政の方で
なんとかするだろう…」
  未知子「それまで我慢しろって云うの?(不満げに)」
  恭一  「仕方ないだろ、相手がカラスなんだから」
   見かねて声をかけ、割って入る恭之介。
  恭之介「おふた方、まあまあ。…なあ、未知子さん。カラスだって生活があるんだ。悪さをしようと、やっ
てるんじゃないぞ。熊野辺りで
   は、カラスを神の使いとして崇めると聞く。まあ、見なかったこ
とにしなさい。それが一番!」
   恭之介を見遣る三人。タマが、仰せの通りと云わんばかりにタイミングよく、ニャ~と鳴く。
  正也M「じいちゃんにしては上手いこと云うなぁ、と思った。でも、散らかる夏の生ゴミは臭い」
  恭一  「父さんの云う通りです。蚊に刺されて痒い思いをするのに比べりゃ、増しさ(笑って)」
  恭之介「あっ、恭一、いいこと云った。殺虫剤、忘れるなよ」
  恭一  「分かってますよ、父さん…(小声になり)」
  正也M「薮蛇になってしまったと、父さんは萎縮してテンションを下げた」

○ エンド・ロール
   逃げるようにそそくさと立ち上がり、出勤していく恭一。食事を続ける三人。
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O

 ※ 短編小説を脚色したものです。小説は、
「短編小説 夏の風景☆第七話」
をお読み下さい。


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残月剣 -秘抄- 《教示①》第八回

2010年02月19日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《教示①》第八回
幻妙斎に対峙した過去の幾度(いくたび)かの経緯(いきさつ)でも、
そうしたことは皆無であったこともある。
「…動かずともよい。楽にして、これから申すことを聞くがよい」
 動こうとしても左馬介は動けないのである。どういう訳か、幻妙斎は、既にそのことが分かっているかのような口ぶりで静かにそう告
ると、話を続けた。
「この儂(わし)も、もう歳じゃて…。孰(いず)れは道場を閉ざさねばならぬであろう。それ迄に御事には皆伝を授けようと思おておる。よって、来たる月より各日、妙義山に参れ。儂は山道途中の洞窟で待つことにしよう。そのことは長谷川に伝えおく。儂の眼に適(かの)うたのは、そなた一人しかおらぬ故じゃ
…」
 その時、身体の自由が利き、束縛から逃れられたように左馬介は感じた。それは幻妙斎の言葉が静かに途切れるのと同時であった。自分に皆伝を授けようと確かに幻妙斎は云ったのだ。いや、そうに違いない。左馬介が上半身を急いて起こすと、既に幻妙斎の姿は部屋内には無く、忽然と消えていた。燭台が消えた暗闇で、灯りとなるのは僅かに漏れ入る月明かりのみである。確かに見た、聞いたと思ったものは、夢に現れた幻覚や幻聴だったのか…。馬介は不可解であった。


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