水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

めげないユーモア短編集 (19)眠気(ねむけ)

2022年10月21日 00時00分00秒 | #小説

 眠気(ねむけ)とは妙なもので、予想していなかったとき、突如として襲ってくる。年齢を重ね、中年を過ぎると、頓(とみ)にその傾向が強くなる。これだけは、誰に文句をいう訳にもいかないから、どぉ~しようもなく、腹立たしい。^^
 とある町役場に勤める丸太(まるた)は、名のとおり、木のように丸く太り、丸太そのものの体格の中年男だった。
「丸太さんっ! 丸太さんったらっ!!」
 昼過ぎの眠気に襲われ、ウトウトしている丸太を揺り起こしたのは若い女子職員の百合川(ゆりかわ)だった。
「…んっ!?」
「課長が見てますよっ!」
「…課長がっ!?」
 百合川に窘(たしな)められた丸太は一瞬、課長の毛無(けなし)をチラ見した。そのとき、タイミング悪く、目と目が合ってしまった。丸太はおもわず愛想笑いをし、軽く頭を下げた。毛無は顔を赤くし、茹蛸に近い顔で怒っている。それもそのはずで、丸太が眠気でウトウトするのは毎度のことで、その都度、毛無に怒り顔で見られていたのである。
 その顔にめげないで働く丸太は、百合川の怒り顔に、いつの間にか気にならないワクチンのような耐性が出来ていたのである。ただ、眠気だけは益々、強まるばかりで、これだけは丸太にもどうしようもなかった。
 生理現象ばかりは、誰もがめげるようである。^^

                   完


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めげないユーモア短編集 (18)コツコツ

2022年10月20日 00時00分00秒 | #小説

 お笑い芸能の有名どころが謳(うた)い文句のように言っておられたが、物事をコツコツと、めげないで続けることは小事ながら大事なことである。━ 千里の道も一歩から ━ という格言めいた言葉もあるように、小さなことからコツコツ始めないと、物事が達成されないのは事実に違いない。それが分かっていながら、この男、横川も草刈り機でバリバリと草を刈り始めた。夏に向かう梅雨時である。いくらバリバリやったところで、根が残っているから、数日もすれば刈り始める前以上に伸びることは予想されていた。それでも、しないよりはした方がいいだろう…くらいの軽い気分で横川は刈り始めたのだった。半ば諦(あきら)め気分の作業なのである。
「横川さん、ご精が出ますな…」
 突然、近くの畑の立山が鍬で畑の畝の草を除草する手を止め、かけなくてもいいのに声をかけた。
「ああ、立山さん。おはようございます…」
 横山は罰悪く、返した。よぉ~~く考えれば、少しも罰悪くないのだが、なぜか横川はそう返していたのである。機械は動いて草を刈っているが、自分は機械を動かしているだけだ…と一瞬、深層心理で思えたのである。だが、次の瞬間、今の時代、自分の考えは理想だな…と思い返した。
「私の畑と違い、かなり大変でしょう」
「ええ、まあ…。コレが手放せません、ははは…」
 横川は立山の助け舟に乗せてもらい、めげないで草刈り作業をふたたび始めた。
 めげないでコツコツやるといっても、コツコツ熟(こな)せるだけの手段が必要・・ということになる。^^

                   完


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めげないユーモア短編集 (17)意識

2022年10月19日 00時00分00秒 | #小説

 めげないといっても、二通りがある。意識してめげないのか? 無意識でめげないのか? である。前者は意識しているから、当然、目的の成就を願ってめげずに続ける訳である。一方、後者の方は、ただひたすら続ける行為だから、成就するか、しないかは二の次なのだ。後者の場合の例を一挙げれば、訳も分からず黙々と座禅を組む・・ような内容に違いない。はっきりとした目的がないからだ。^^
 とある寺院の禅道場である。一人の男が座禅を組みに寺へ訪れた。
「ほう! めげずに、また来られましたか…」
「いや! どうも、導師に肩を叩かれませんと肩の凝りが取れません…」
「ははは…凝りが、ですかな。どうも拙僧は張り薬の存在のようですなぁ~」
「いやいや、張り薬よりは、よく効きます」
「ははは…これはこれはっ! では、この度(たび)も手加減せずに叩きますかな…」
「いかようにも…」
 めげないで男が寺を訪れる訳は、肩凝りを治そうとする意識があったからである。
 精神というより、身体を意識した予想外のめげない継続も、あるにはある訳だ。^^

                   完


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めげないユーモア短編集 (16)結果

2022年10月18日 00時00分00秒 | #小説

 オリンピックが近づいている。どのスポーツ選手だって、今以上の結果を望んでいることだろう。昨日、テレビ中継された日本陸上の三段跳びだが、ホップ→ステップ→ジャンプし、13m44で優勝した方にしても、自己最高記録が13m52なら、喜びも今一つだったに違いない。これが13m55跳んでの優勝なら、喜びも一入(ひとしお)だっただろう…と、勝手に解釈した次第だ。^^ 選手の方々は、過酷な練習にも耐え、日夜、めげずに結果を出そうと頑張っておられる訳だ。そういうことで、でもないが、皆さん、ここでオリンピックの上位入賞を目指す選手の方々に熱い拍手をっ!!^^
 とある剣道場である。師範と弟子が稽古を終え、汗を拭きながら話をしている。
「君は、なかなか結果が出ないねぇ~」
「はあ…」
「負けても負けても、めげないで練習している君の姿勢は、高く評価しとるんだよっ!」
「はいっ! 師範、有難うございますっ!」
「ああ、評価はしとるんだよっ! めけない評価は、ねっ! めげない評価はしとるんだが、結果の評価は、ね…」
 師範は、暗に君は勝てないな…と言いたげに弟子を垣間見た。弟子も、自分の実力が分かっているようで、敢えてそれ以上は話そうとはしなかった。
 めげないことで結果が出せるか? と問えば、必ずしもそうではないことが分かる。それでも、めげない人は結果を気にせず、めげることなく続けるのだろう。^^

                   完


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めげないユーモア短編集 (15)無理

2022年10月17日 00時00分00秒 | #小説

 めげないで無理をするというのも、いかがなものか? と思える年に恥ずかしながらなってしまった。^^ 若い頃は、かなり無理をしたが、それでも若さに後押しされ、なんとかやり終えられたものだ。古い話で恐縮だが、第二次大戦の終戦を知らず、ジャングル奥地に潜(ひそ)んで生活された小野田元陸軍少尉は、何十年もジャングルの過酷な環境にめげず、救出された方である。小野田氏の場合は、無理してもめげない強靭(きょうじん)な精神力があったから可能だったのだろう。私なんか、小一時間で音(ね)を上げるに違いない。^^
 とある、どこにでもありそうな家庭である。
「お父さん、大丈夫ですかぁ~? 無理されず、修理に出した方が…」
 とまでは言っては見たものの、こう! と思ったらやり遂げずにはいられない夫の性格を知る妻は、それ以上は深追いせず、台所へと撤収した。夫は、俺はめげんぞっ! という強い決意で傷んだ製品と格闘していた。格闘するのは勝手だが、無理なものは無理で、妻が言ったとおり、修理に出した方がいいように思われた。そして格闘から数時間が経過したとき、傷んだ製品は見るも無残な姿に変貌(へんぼう)を遂げていた。こうなっては修理は無理で、ただの粗大ゴミと化したその製品の寿命は尽きたのである。
 めげないのは立派だが、続けて成功させる自信がなければ、めげた方がいいのかも知れない。^^

                   完


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めげないユーモア短編集 (14)暑さ

2022年10月16日 00時00分00秒 | #小説

 まさか、こんな暑くなるとは…と、農作業をしていた広坂(ひろさか)は完璧(かんぺき)に、めげ始めていた。天気予報を完全に信じ切っていた広坂の考えでは、予報もああ言ってんだし、暑くはなるだろうが、今の季節、まあ少し暑いくらいか…という程度だった。ところが、である。案に相違して、その暑さは真夏を上回る猛暑日となったのである。
「チェッ! 終わったら、気象庁に電話してやるっ!」
 広坂は、どうにもならないことをブツブツと愚痴りながら、ビショ濡れになった額(ひたい)の汗をタオルで拭(ぬぐ)った。そうはいっても、気象庁に責任がある訳ではない。気象庁は、かなり暑くなるでしょう・・と、予報していたのだ。ただ、その程度を耳をカッポじいて聴いていなかった広坂に責任があった。それを逆恨(さかうら)みしてはいけないのだが、広坂は予報ミス・・と勝手に断じたのである。しかし、予定した農作業は熟(こな)さないと、怖い嫁が待つ家には戻(もど)れない。広坂は、めげないで作業を続けた。めげないで続けたのはいいが、身体の方がめげていた。広坂は、畑前の草だらけの日陰(ひかげ)で大の字になった。幸い、水筒は持参していたから、それをガブガブッと飲み、熱中症になる最悪の事態だけは回避(かいひ)できた。
 農作業を終えて帰る道すがら、広坂は暑気は侮(あなど)れないな…と、しみじみ思った。いつの間にか、気象庁へ電話する一件は、すっかり忘れていた。
 暑さにめげないのは、精神面だけでなく身体面もある・・という注意を喚起(かんき)するお話でした。^^

                   完


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めげないユーモア短編集 (13)場合

2022年10月15日 00時00分00秒 | #小説

 めげない方法や道を場合によりアレコレと模索する・・というのも一つの発想だ。めげるような出来事に至らないためにはどうすればいいか? という考え方である。とくに、参謀、古くは軍師というような存在には、場合によるこの発想が大事となる。多くの者をめげさせず、勝利へと導く道を開く、いわば、場合の知恵者なのだ。
 戦(いくさ)真っただ中の、とある戦国時代の戦場である。
「うむっ…。さすがは真田の城じゃ!」
「殿、このまま推移すれば、兵が、めげて疲弊(ひへい)致しまするっ! この場は一端、引退(ひきの)き、関ヶ原へ急がれては如何(いかが)かと…」
「そなたの申すのも、分からぬではない。分からぬではないが、ここで城攻めをめげる訳には…」
「殿っ! 城攻めが大事にござりまするか!? 関ヶ原が大事にござりまするかっ!?」
「申すに及ばず…」
 武将は軍師の兵を進める策を入れ、めげて兵を退却させた。
 めげないより、めげた方がいい場合もある・・というお話である。^^

                   完


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めげないユーモア短編集 (12)再審請求

2022年10月14日 00時00分00秒 | #小説

 三振[さんしん]すればアウトとなり、すごすごとダッグアウトに引き下がらねばならないが、再審[さいしん]はもう一度、社会の打席に復帰できるチャンスがある。^^ むろん、再審請求が認められれば、という仮定の話だ。とはいうものの、当の本人が諦(あきら)めてしまえばそれまでで、確定した判決は覆(くつがえ)らない。要するに、本人のめげない不屈の精神が必要となる。この男、雀田(すずめだ)も、目撃者の見間違いで犯罪が確定した哀れな男だった。だが、当の本人は無実を知っているから、当然、確定判決を不服として再審請求を考えていた。焼き鳥にはされたくない…という悲壮な思いだった。その雀田が弁護士の串炭(くしずみ)と接見(せっけん)している。
「なにか、判決が覆るような確固とした物的証拠がないと…」
「ですが、弁護士さん! 私が罪を犯したという物的証拠もない訳ですからっ!」
「はあ、それはまあ…。状況証拠と目撃証言だけです…」
「でしょ!? 私だって自殺を止めようとしたんですから…」
「はあ、それはまあ…。本人の意識が回復すれば、すべてが解決するんですが…」
「ずぅ~っと、彼は植物人間っていうじゃありませんかっ!」
「はあ、それはまあ…」
「私は止めようとした。それを遠目で見ていた方の証言でしょ! 確かに彼とは事前に喧嘩(けんか)はしてましたよっ! 喧嘩はしてましたけどねっ! 殺そうなんてとんでもないっ! 分かってくれますよねっ!!?」
「はあ、それはまあ…」
「それはまあ、それはまあって、串炭さん、ほんとに分かってんですかっ!?」
「はあ、それはまあ…」
 雀田は、弁護士、串炭の、それはまあ…にめげないで焼き鳥にならない再審請求の道を決意した。^^

                   完


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めげないユーモア短編集 (11)議席

2022年10月13日 00時00分00秒 | #小説

 落ちても落ちても、めげずに選挙に立候補する男がいた。この選挙もか…と、誰もが思える男だった。その名を紐革(ひもかわ)という。人々には、なぜ紐革がめげないのか? というその理由が分からなかった。それもそのはずで、紐革の立候補回数は優に50回を超えていたからである。一度でも当選した・・という実績があるなら話は別で、理解できた。だが、紐革の当選回数は皆無だった。当選皆無の男がめげずに立候補し続ける・・これは誰の目にも狂気の沙汰としか見えない。
 とあるとき、その訳を知りたくて我慢できなくなった報道記者の一人が、思い切ってインタービューを試みた。紐革は別に断る理由もなく、軽い気分で応諾した。
「どうしてなんですかねぇ~? 私らには、とんと、理解できないんですが…」
「ははは…議席に座りたいからですよ。ただそれだけです…」
「…議席に座りたい? 意味がよく分かりません?」
「分かりませんか? 議席…」
「議席は分かりますよっ! 議場の議席でしょ? ただ、なぜ議席に座りたいか? その理由ですっ!」
「そりゃ~あなた、簡単明瞭! 私の山林の木で造られた議席だからですよっ!」
「それで50回以上も、ですか?」
「はい…」
 紐革は、ごく当たり前のように返した。
 議員になりたい・・という理由ではなく、議席に座りたいだけの人もいる・・というお話である。他人には分からない、ごく有り触れたところに、めげない訳はあるようです。^^

                   完


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めげないユーモア短編集 (10)齢(とし)

2022年10月12日 00時00分00秒 | #小説

 齢(とし)というのは子供の頃は増えるのが楽しいが、妙なもので、齢を重ねると気鬱(きうつ)になってくる。年老いてからは、齢なんぞ取りたくない…などと毛嫌いし、忘れたいと思うようになる。とくに女性の方々は妙齢になられると、齢を訊(たず)ねられるのを、まるで不吉な前兆のように忌み嫌われる。^^ まあ、男性の場合でも、少しは若く見られたい…と、年老いて白髪や禿(はげ)た部分を染めて隠すという努力をしたりする。私だってその一人だ。^^
 とある寄席である。一席が終わり、落語家、昔々亭今輔は、深い溜め息を一つ吐(つ)きながら楽屋へと最近、頓(とみ)に重くなった足を運んでいた。思うのは、「…だってさぁ~、まだ若いんだよっ!?」と着替えながら強がり、世話係の二つ目の弟子、明日(みょうにち)に言い返された「師匠っ! もうお米なんですから…」のひと言だった。「…お米っ!? お米って、なんなんだよぉ~!」と逆に言い返したまではよかったが、「お米っ!」「…お米っ!?」となり、「米寿ですよっ、米寿っ!」「…米寿って、アノ米寿かいっ!?」「そうですよっ! その米寿っ!」「…八十八の?」「はい、八十八の…」「…誰が?」で、落語のようにお終いとなった問答だった。今輔は昨年、芸術選奨で表彰されたものの、未だに人間国宝には、なれないでいた。米寿の齢を迎えた今年も、「私ゃねぇ~、ははは…芸が拙(つたな)いからさぁ~」と弟子達に悪びれることなく宥(なだ)めたのである。しかし、ただ一つ、愚痴が出るのは、「齢だけは嫌だ嫌だっ! 忘れたいよ、忘れたい…」だった。そんな今輔だが、今年もコロナにもめげず、高座に上がり続けているのである。^^

                   完


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