(「親の七光り」や「遺伝」だけでは成功できない)
以前、あるテレビ番組で、芸能人の二世のことについて取り上げていました。「母親が女優」とか「父親が俳優」といった人たちがどうなっているかを辿(たど)る内容で、一時間ぐらいの番組でした。
それを観(み)ると、二世たちはみな、苦労しているようです。
例えば、「オーディションを百回ぐらい受けて、ことごとく落ちました」という人が出ていました。また、ヒップホップダンスをしているという人は、何百人か受けたオーディションで最後の五人に入り、「これで優勝さえすれば道は拓(ひら)ける」と思って、女優の母親が観ている前で決勝に挑(いど)んだものの、残念ながら、優勝はほかの人でした。レッスンの高い授業料ぐらいは稼(かせ)ごうと、焼き鳥屋でアルバイトもしているそうです。
ほかの人もみな、本業以外のアルバイトをするような話が出てきていました。
その二世芸能人たちは、親に似て、よい顔立ちをしているのですが、彼らが意外と真面目(まじめ)であったところは、少しホッとしたところではあります。
ただ、やはり、何か“武器”をつくらないと出られないということで、芸を身につけるべく乗馬の練習をする人もいました。そうすれば、時代劇に出られる可能性も出てくるのかもしれません。
二世芸能人の彼らも、何か芸を身につけようとしてやっているわけですが、なかなか出られずにいるのを嘆(なげ)いてはいました。「親の七光りの重みは十分に感じています。感じてはいるけれども、どうにもなりません」「オーディションを受けても受けても、落ちます。なぜか分からないのですが、通らないのです」という感じだったのです。
とにかく、何年かやっているうちに諦(あきら)める人もいれば、アルバイトをしながら道を目指している人もいましたが、なかなか難しいのでしょう。そうでなければ、ほかにも新しい人が出てきてスターになったりはしないはずです。
このように、遺伝の面もあるとしても、親子であっても、親と同じような成功はできない方もいます。
これは、医者にしても同じようなところはあるでしょう。
開業医などは特にそうかもしれません。病院を開くにも初期投資が要(い)るし、運転資金も継続(けいぞく)的にかかるため、四千万円ぐらいは収入がなければ、とてもではないけれどもやっていけないでしょう。
また、子供が医学部に入れるか、医師の国家試験に通るかということも大変なところではありますが、それだけでまだ終わるわけではなく、実際に開業医をやってみたところで、金銭感覚や経済的才覚がなかったら潰(つぶ)してしまうこともあります。このように、なかなか難しいものです。
とにかく、世の中はどこも厳しいものだと思ったほうがよいでしょう。
したがって、大きな希望を持つことも大事ではあるのですが、自分に対しては、あまり緩(ゆる)く判定せずに、着実に何かを継続して自分のものにしていくことが大事なのではないでしょうか。
やはり、どの道も厳しいものです。本当に厳しい。そのことをつくづくと思いました。
---owari---
ある青年がラジオ局の入社試験を受けたときの願書には「父:田所康雄、職業:俳優」との記載。人事担当者は無名の大部屋俳優だろうと気にも留めなかったそうです。
めでたくその青年は合格し、入社式にその父親が現れると会場は騒然となりました。何しろ日本で知らない人は居ない程の名優だったから……。
コメントをいただき、有難うございます。
『父 田所康雄 職業 俳優』はあの有名な「フーテンの寅さん」こと「渥美清さん」だったのですね。入社式に寅さんが現れて、人事担当者は本当に驚いたことでしょう。
この青年「長男の田所健太郎さん」は本人の実力で採用されたということでしょう。渥美清さんは芸に対しても人生に対しても、厳しい一面をお持ちでしたので、履歴書に「渥美清」と書かせなかったのだと思います。