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徳川軍の追撃をやめた上杉 ⑩

2022年08月26日 | 歴史
今回のシリーズは、直江兼続についてお伝えします。
兼続は上杉家の大黒柱で、米沢藩初代藩主 上杉景勝を支えた文武兼備の智将です。
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こういう家康の様子を、兼続は透視していたのだろうか、
「家康を追撃しましょう」
と景勝にいった。が、景勝は、
「いや、やめよう」
と首をふった。兼続は景勝を見た。
「どうなさいました? 勝てますよ」
「わかっている」
「それならば、なぜ?」
「うむ」
景勝はしばらく無言だった。

やがて、まっすぐに兼続を見つめながらいった。
「上杉の役割はここまでだ」
「えっ?」
真意をはかりかねるように、兼続は景勝を凝視した。

「上方の戦いは、所詮上方同士で決着をつけなければならん。われわれは家康を白河口まで誘い出した。もしそこで、一戦となれば、上杉も死力をつくして戦っただろう」
「はい」
「だが、家康は反転した。敵の主力が兵を返した以上、上杉と上方の一方の実力者との決戦は終った。上杉に背を向けた相手を、追いかけてまで討ち取らねばならない義理はない」

「しかしながら、いま、家康を追撃すれば、家康の力を確実に弱めることができます」
「うむ」
「そうすれば、石田殿の勝利はいっそうたしかなものになります」
「それはそのとおりだ。だが、それには、上杉の犠牲も多くなる。

後ろには最上や伊達の若僧が上杉領を狙って兵を集結させている。たとえ、家康に大打撃を与えられたにしても、凱旋してくる上杉に飢えた狼のように伊達の若僧が襲いかかってこよう。上杉だけで家康を完全に討ち取ってしまえるのであれば、あえて出撃するのも意味はあろう。が、自国領を空にしてまで追撃し、上杉だけで家康と家康に従う上方軍を壊滅させるだけの実力がいまのわれわれにあると思うか」

「ありません」
「上方者同士の戦いは、いずれにしろ徳川と石田の間ではっきりと決着をつけなければならない。おれもおまえも石田三成の側に賭けた。そして、ぎりぎりの危険を冒して上杉のできる最大の努力ははらった。あとは、秀頼さまの御名と石田三成の采配に命運を賭けるしかない。

(『歴史小説浪漫』作家・童門冬二より抜粋)

---owari---
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