今回のシリーズは、毛利元就についてお伝えします。
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元就は、重役に対してもある種の不信感を持っていた。つぎの言葉はそのことをよく物語っている。
「昔から国を奪う者は、必ずその家の重役に決まっている。したがって賢明なトップは絶対に自分の権限を下にまかせない。下にまかせると、そのまた下の部下は自分の出世や給与が多くなったことを、権限をまかせた重役のおかげだと思い込んでしまう。トップの存在を忘れる。やがては、トップがいるかいないか、その存在が稀薄になってしまう。
重役への権限の委譲は、重役の威(い)を高めるのに役立つだけで、決してトップのためにはならない。この現象が進むと、結局は重役が自分の威を頼んでトップを追放し、国そのものを奪い取ってしまう。心すべきだ」
この言葉は、毛利元就が中国地方の支配者だった大内義隆の総務部長をつとめていたときに、義隆にたいし諌(いさ)めの言葉として口にしたものだといわれる。
当時大内家では、陶晴賢(すえはるかた)という重役の勢いが増し、義隆が晴賢の能力を頼んで、
「これも任す、あれも任す」
と、しきりに権限の委譲を行なっていたので、元就は総務部長として、社長である大内義隆の危機を感じ、
「重役への権限の委譲も度を超すと、その重役がトップにとって代わります」と言った。
(『歴史小説浪漫』作家・童門冬二より抜粋)
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