サミットは2016年5月26日から27日にかけて行われましたが、会議には先進7か国の首脳に加え、トゥスク欧州理事会常任議長(EU大統領)とユンカー欧州委員会委員長が参加しました。そして安倍首相が主導する中、金融政策、機動的な財政戦略、構造改革の「三本の矢」で協調していくことが確認されました。
また、南シナ海における中国の海洋進出問題や北朝鮮問題、世界で頻発するテロの問題、中東から流入が続いているヨーロッパの難民問題、さらには「パナマ文書」で明らかとなったスタックスヘイブンを利用した国際的な課税逃れの問題など、世界が直面している問題についても協力して対処していくこととなりました。
また、翌27日には、拡大会合も行われ、そこにはASEAN(東南アジア諸国連合)の議長国であるラオスのトンルン首相をはじめ、チャドのデビ大統領、インドネシアのジョコ大統領、スリランカのシリセナ大統領、バングラデシュのハシナ首相、パプアニューギニアのオニール首相、ベトナムのフック首相が参加しました。
さらにこの日、オバマ大統領が安倍首相と共に広島の平和記念公園を訪れ、平和記念資料館を見学した後に原爆死没者慰霊碑に献花して、原爆犠牲者を慰霊しました。
唯一の原爆使用国であるアメリカの大統領が広島を訪れ、唯一の被爆国である日本の首相と並んで「核兵器のない世界」を目指す姿勢を示したというニュースは、その日のうちに世界中に発信されました。
アメリカの大統領が、これまで広島と長崎に原爆を投下した事実に対して謝罪したことは一度もありません。
アメリカはこれまで、一貫して「原爆投下は戦争を終わらせるために必要だった。原爆投下によって多くのアメリカ兵の命が救われた」と原爆投下を正当化してきました。そしてアメリカの学校でもそう教育してきましたから、アメリカ国民の多くは「原爆投下は仕方がなかった。謝罪なんてする必要はない」と思っています。
それだけに、アメリカ政府はオバマ大統領の広島訪問については慎重でした。しかし、それを乗り越えて広島訪問を実現させたことは、これからの日米関係を考えても大きな意味があったと言えます。
このオバマ大統領の広島訪問について、「謝罪の言葉がない」という声があります。しかし、大半の日本人はオバマ大統領の広島訪問を歓迎して理解を示しました。
被爆者のひとりとしてオバマ大統領と会った日本原水爆被害者団体協議会代表委員の坪井直さんは記者会見でこう言っています。
「原爆は人類の歴史において不幸なできごとです。アメリカがやったからどうじゃない。ああいうことをやったのは人類です。だからアメリカを責めてはいけない。それを乗り越えないといけない。人間には英知があるのだから・・・・・」
わたしはその姿勢こそ、日本人らしいものだと思います。
決して過去を忘れたわけではありません。しかし、どこかの国のように、いつまでも相手に復讐心を燃やし、謝罪を求め続けるようなことは、日本人はしないのです。
そして世界はそんな日本の在り方に共感するようになっています。
それは、日本人は何事もよくわかっているからです。
原爆投下の日、中学三年生だった私は、近所の人たちとその第一報を聞きました。男は二十歳以下か四十歳以上の人で、半病人か中国で戦争をした経験のある人たちでした。
その人たちの発言をよく覚えています。
①―――「日本は負けたナ」
②―――「原爆開発競争に負けたナ」
その原爆開発競争に勝っていたら、もちろん日本は使う気でした。
③―――「ただし、日本ならまず海上投下で完成したことを見せるのが先だナ」
ここから議論が分かれます。
④の1―「だからこれは人体実験だ」
④の2―「それをソ連に見せるのが目的だ」
⑤―――「いずれにしてもアメリカは対日戦と対ソ連戦の両方に勝った」
⑥―――「これでいちばん助かるのは日本陸軍だナ。国民に必勝論を唱えた責任が消える」
⑦―――「やがてアメリカ軍が上陸してくる」
ここで議論はさらに両論に分かれます。
⑧の1-「男はタマ抜き、女はメカケ・・・・・それが戦争の常識だ」
⑧の2-「ポツダム宣言を守る義務はアメリカにもある。日本には天皇がいる。したがってこれは平和進駐になる」
⑨―――「アメリカ軍が引き上げるのは三年後か十年後か」
⑩―――「その間に米ソ戦があるかもしれない」
⑪―――「これ以上は庶民にはわからない」
防空壕(ごう)の前に近所の人たちが集まって、こんな立ち話をしたのはホンの三十分間ぐらいのことでした。
私はそれを感心して聞いていました。これ以上の議論は、その後も聞いたことも読んだこともありません。つまり、当時の日本人の知性・教養はすでにかなり高かったのです。
そして大事なことは、「アメリカに謝れ」とは誰も考えていなかったことです。そのときもそうでしたが、今もそうです。
だからオバマ大統領は謝らなくてもいいのです。
日本の心はさらに高い段階にあるのです。
日本が世界に与える影響力は明らかに大きくなっていますし、世界もまた日本に学ぼうとする姿勢を示し始めています。
どちらにしても、日本のように国民がまじめに働いて、互いに助け合っている国は他にありません。賢くて、長い目で信用を大切にしている。そういう国のすることに失敗はありません。
だから日本は大丈夫なのです。
これまでやってきたことの成果が表れて、今、世界が日本を手本にしようとしています。つまり、「日本出動」の時代がやってくる。それも、わざわざ出ていくんじゃありません。みんなが日本を見習おうとついてくるんです。
まぁ、二、三年もすれば、そうした潮流は誰の目にもわかるようになるでしょう。つまり、「日本が世界を主導する時代」が到来します。
ただし、日本の出動は、押し付けではなく、「柔よく剛を制す」という形になるでしょう。
しばらくは、見える人には見えるが見えない人にはまったく見えないという状態が続くでしょう。
それでもいいのです。それが日本流なのです。
そもそも、アングロ・サクソンのやり方は威圧することで相手を従わせるという方法でした。「ヒュージネス(巨大なもの)」を前にすると人の思考力や常識が壊されてしまうのです。
しかし、それでは新しい時代を築くことはできません。学問的知識のある人はそんな無力感に陥ってはなりません。それを打ち破ってこそ、日本流の「柔よく剛を制す」ことができるのです。
(日下公人著書「『日本大出動』トランプなんか怖くない(2016年6月発刊)」から転載)
---owari---
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