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Surf, Run and Trails / Endurance For Fun

激坂を走り終えて

2017-03-21 00:23:25 | ランニング



2017/3/19 第1回山道最速王決定戦

箱根ターンパイクを閉鎖して行われたランレース。
東海道線 早川駅で降車。小田原の一つ先の駅だ。
無人駅に近いローカルな駅からは早川港が目前。

関東から伊豆、箱根へ行くための通過するだけの土地でパッとはしない。
駅から歩いて数百メートル先の早川小学校を目指す。

小学校の校庭でレースエントリーするのだ。
小学校の校庭に足を踏み入れたのは40年以上振りだ。
校庭というのは時間がたってもいつの時代も変わらない。
日曜の校庭は時間が止まったようだったし、
強烈な春の日差しと鉄棒の錆びた鉄が入り混じった懐かしい匂いがした。


校庭は変哲はないのだが、そこへ筋金入りのアスリート達がどんどんやってくる。
異様なほどの違和感。とにかく年齢層が低い。
大学の陸上部、企業名の入ったジャージ。 県の強化選手なのか、県名のランニングを着た女子。
そんなのがごろごろ集まってきて、エントリーを済ませてからアップしている。
50歳代は見当たらない。20、30歳代が圧倒的に多い。

自分はあきらかに場違い。エントリーする大会を間違えてしまった。
やっちまった、と思った。
みんなアップしているので自分も軽く足を動かしてみるが、
シンスプリントは一向に良くなっていない。
テーピングでスネをガチガチに巻いたが、着地で相変わらずドーンという鈍痛がある。
それと、前日にコースを下見したのだが、想像以上の激坂に心が折れた。

年齢、コース、痛み、プラスになる要素が全くない。
いささか憂鬱になるが、一緒に参加の仲間と談笑してごまかす。

スタートは12時。
余裕を持ってスタートとなるターンパイクの料金所へ向かう。


校庭からは数分。
スタートから見える先は圧倒的な坂道。
コース全体で勾配7%とはなっているが、スタート直後10%ある。
そしてそれが延々続く。 標高差980m。



さて。
最近のレースはとてもエンターテイメント化している。
今回はFM横浜が後援なのでMCはプロのアナウンサー。
ゲストランナーはコニカミノルタの神野大地。箱根5区の山の神だ。
それから世界トップのトレイルランナー鏑木毅氏。神の領域を走れる日本人。
彼らはまさにスターで、話も上手でルックスも良い。
業界の底辺を広げ、トップランナーを牽引する。
ロードとトレイルを一体化し、ランビジネスをさらに強固なものへ誘導している。


そして、ものまねタレントM高史。 埼玉県庁 川内優輝のものまねながら、フル2’40”で走れる実力者。

彼は先にスタートして、途中で選手とハイタッチする。
で、ゴールしてから、まだ走っている選手がいるから応援しなくちゃといってまた下っていった。
なんて良い奴なんだろう。なんて爽やかなんだろう。
(その話をゴールで聞いた。胸が熱くなったよ。)


スタート時刻が迫る。
スターターは神野大地。

「いちについて、ヨーイ、ドン」
フルマラソンではこの声はスタートがはるか後方なので遠すぎて聞こえない。
今回はよく聞こえた。
カケッコと同じだな。まさにカケッコ。1600名が一斉に飛び出す地獄のカケッコの始まり。


数百メートルで足に重りがついたようになり、呼吸が乱れる。
まず最初の難関。最初から潰れそうになるのは予想通り。
きっとこれを耐えれば楽になる。心肺が温まってくれば調子は上がるはず。

しかし、呼吸の苦しさは徐々に落ち着いてきたのだが、とにかく足が重い。上がらない。
GPSウオッチが1キロ通過を教える。
やっとの思いで1キロだ。ランニングブルー。。

後方から歓声が聞こえる。
そう神野大地と鏑木毅が全員のスタートを見届けて最後尾からスタート。
ニコニコ笑いながらもの凄いスピードで走り抜けていく。
あの細い脚で、10%勾配を平地のように走っていく。化物だ。やはり神だった。

自分といえば、誰も越せない。
どんどん、どんどん抜かれていく。
こんなに抜かれたことは今までない。
スタート直後からテンションは下がり、大きな敗北感に襲われた。
このまま走りきれっこない。
だから急遽作戦を組んだ。
脳が止まれ!という指令を出す前に、積極的に歩行にチェンジするのだ。
決して止まらない。歩行は膝に手をそえて、大股で登る。
そしてすぐランにシフトアップする。
これをコマメに行った。
その効果か、走り続けている人を抜くことさえできた。

年齢層はといえば、小学校の校庭で見渡した通り、やはり高齢者はいなかった。
関係ないけどデブ率は0。 女子は意外と多い。男塾かと思いきやチャレンジ女子は多い。
オレを抜いていった小柄な女性は悲鳴を上げながら走っていったよ。
負けず嫌いなんだな。アスリートオンリー、本当に過酷なレース。

とにかく10キロまで持ちこたえろ!そう言い聞かせて登り続ける。
10キロを超えると下りが出てくるのだ。

ターンパイクは自動車用に設計されている。
コーナーはバンクがついている。
これがランナーを苦しめた。
連続コーナーでは最短コースを取るのにバンクを登らなくてはいけないのだ。
だから勾配10%に更にバンク角度が加算される。
コーナーを終える。目の前の坂道は終わらない。
大腿四頭筋が火を吹いたように熱く燃えているようだった。
いや、実際燃えていた。
身体中の脂肪が燃焼していただろう。

日差しは予想以上に強く、気温は高い。
汗でサングラスが見えなくなるほど発汗している。脱水の危険を感じる。
10キロ手前でようやく順位が安定する。
抜きつ抜かれつがなくなってくるのだ。

そして10キロ。徐々に勾配がなくなりフラット0。そして道路は下っていく。
辛い辛い行脚は終盤になった。
水を得た魚のように脚の筋肉が生まれ変わる。
登りと下りは使う筋肉が全く違うのだ。
心臓はi-Vtec2.4L。 脚は無限サスペンション。
限界加速をする。脚はついてくる。だいじょうぶ。

CloudFlashが本来のスピードを手に入れ、オレは羽を手に入れた。
飛ぶように走る。なんて気持ちいいんだろう。
スキーで直滑降している気分。
走るってこんなに気持ちがいいことなんだ。走りながら胸が熱くなる。
幸せを味わいたいなら、それと同じ量の地獄を味わう。
そしてそれが叶う。
どんどん抜いた。オレは下りタイプなのかもしれんな。

前の方から悲鳴が聞こえる。
悲鳴は連鎖して広がってくる。
オレも思わず悲鳴を上げた。
下りのコーナーを抜けたら、そこに今回最大の傾斜が待ち受けていた。
300mなのか500mなのか急すぎて距離がつかめない。
多くの選手がペースダウンし、あるいは歩いている。
でもゴールは目前。ゴールがあるから走れる。
ゴールがなければやめる。何事にもゴールは必要。
そしてゴールは設定されたものではない。自らがそこにゴールを置いたのだ。
だから目指す。なにがあってもゴールを切る。

最後の傾斜を終え、ゴールのMAZDAスカイラウンジが見えた。
緩やかな下りをまた一気に加速し、ゴール前の登りを惰性で登り切る。

ゴール。


ゴール後、初めて倒れ込んだ。空を仰いだ。

登りきった。標高約1000mを13.6キロで走りきる。
オレの脚よ、がんばった! 心臓よ、おつかれさん!

神野大地、鏑木毅が笑顔でハイタッチで迎える。

この激坂に集まってくる人々は尋常ではないと思っていた。
でもその中に自分もいる。全くバカだ。

なんでこんな坂を走るのかな。答えはゴールにあったよ。
走ることは人生と同じだ。辛くて当たり前。
だから辛さを実感できるのは幸せなことなのだ。

1回目の大会ということもあり、段取り悪かったりするのはご愛嬌。
スタッフ、ゲストランナー、そして選手みんなで盛り上げた非常に良いレースだった。
この大会はきっと来年もやるだろう。チャレンジャーがいる限り。

結果:順位は全体の約25%。 50歳代はほとんどいなかったから、ヨシとしたい。
けど、歳だからダメダメっていうのはないってことだ。
歳は理由にならん。自分の心に勝てるかどうかだね。

(後書き)
世にはさまざまなスポーツがあるけど、
物販、大会運営、メディア、業界プロデュース、スポンサー
が見事一体化しているのがランニング業界。
激坂の充足感とは別に、今回そういうことを強く感じた。

一度マイナーになると復活はしない。やがて消滅の道をたどる。
業界のコアメンバーが真剣に取り組まないといけない。
大会をどう誘致するか、どう運営するかではない。
そうやって底辺を拡大していくか。
答えがわからなければ走ってみればいい。
70歳のランナーに抜かされたときにわかる。