グリーンブレーカーズ by 高木肥料店

農業の現場の おはなしなどなど。

「攻めの農業」の 別の顔。

2016-06-19 03:07:27 | Weblog
「攻めの農業」の 別の顔。

2012年に発足した第二次安倍政権のもとで 推し進められている
「攻めの農業」。その政府の姿勢を象徴するものが “農林水産物の
輸出促進”です。

今回は 2015年に7000億円を超えを果たした、この農林水産
物の輸出の伸びと内容の実態を 2014年の12月に 発表された
2013年の統計を使ってみていくことにいたしましょう。

ののののの攻めの実態5

まずは 為替相場と輸出量の変化が合わさったこのグラフです。

当然のことながら円安は輸出に有利に働きます。おおむね認識され
ているのが

 1円の円安で 輸出量は 約25億円増加する

というもの。ということで、たとえば25円の差がつけば[円の相場
が100円のときと125円のときでは]625億円のちがいがでて
くるということになります。

つぎに注意したいのが、いわゆる “農林水産物” の内訳です。たと
えば このグラフの2013年の農林水産産物の輸出額は5505億
円ではありますが、そこから2216億円の水産物の輸出額と152
億円の林産物の輸出額を引けば、いわゆる農産物の輸出額が3137
億円[農林水産物の55%くらい]ということがわかります。

ののののの攻めの実態4

その輸出される農産物の内訳をあらわしたものが、このグラフです。

まずは半分の金額を占めるのが、加工食品です。味噌や醤油にソース
や お酒にジュースにお菓子など。合わせて1506億円とされてい
ます。さすがに日本製の加工食品は海外で人気があるのだなとおもう
のですが問題があります。

それは加工原料として使われる大豆やおコメなどの約8割が輸入農産
物で製造されていること。これでは国内の農家と農業の利益にはつな
がりません[もちろん加工業者の利益にはなりますけれど]。

次にとりあげるのが、輸出額が70億円となっている穀物類です。

小麦粉やインタントラーメンにうどんやコメなどがこれにあたるので
すが、これらの原料である原料小麦は よく知られているように約9
割が輸入品
ですから、ここでも 国内の農家と農業の利益には直接つ
ながるとはいえない状況にあります[加工業者の利益にはなりますが]。

それから 輸出額が 382億円の畜産物です。

海外で和牛の人気が高いのは周知の事実 ですから、そのほとんどが
和牛の輸出額によるものだと思いたいのですが、実際には

ののののの攻めの実態6

ブタや牛の皮にゼラチンなどの動物由来の副産物が73%ちかくを占
めているのがわかります。またよくよく考えてみれば、これらの家畜
のエサの大部分も輸入
されているわけですから、統計のグラフに踊る
輸入という文字をみるたびになんだか複雑な気持ちにもなってしまい
ます。

攻めの実態1 攻めの実態2 攻めの実態3

ということで 今回説明してきた円安とか原料の問題とか 農産物の
分類とかを かんがみたうえでの結論となるわけですが・・・

ひとくちに農産物輸出が伸びているという事実があったとしても

  実際のところ伸びているのは[輸入原料を使った]加工食品

であり、世間一般的に農産物輸出のイメージがある食肉に果実に野
菜におコメなどの

  生鮮農産物の輸出額は農林水産物の輸出額のうちの1割程度

であることがわかります。

以上、 今回は “大切な農業を守るためにしっかりと改革し攻めて
いかねばならない
” “2020年を1年前倒しして1兆円を達成し
ていく
”というぐあいに、選挙を控えてますます熱気をおびていく
安倍首相の街頭演説における「攻めの農業」の象徴ともいえる“農林
水産物の輸出促進”の実態を、2013年の資料をもとに考察してみ
ました。


◎ 大部分の農家のみなさんが “実感できない”と 口にされる
  ことが多い農産物の輸出増。その感触は、アベノミスが実感
  できないという、あの感覚に似ている
気がします。

51P4M6yKWYL__SL500_SS75_.jpg 「夢で終らせない農業起業」「 本当は危ない有機野菜