福島章恭 合唱指揮とレコード蒐集に生きるⅢ

合唱指揮者、音楽評論家である福島章恭が、レコード、CD、オーディオ、合唱指揮活動から世間話まで、気ままに綴ります。

ネヴィル・マリナーの死を悼む

2016-10-04 16:36:44 | レコード、オーディオ


 ネヴィル・マリナーの名前を知ったのは、1974年11月2日のことである。なぜ、そう言い切れるのかというと、その日は日米野球第6戦、全日本vsニューヨーク・メッツ戦の試合前にハンク・アーロンと王貞治によるホームラン競争が行われた日だからである。

 当時小学校6年生だったわたしは、すでに社会人になっていた従兄弟の勉兄さんに連れられて後楽園球場に行った。そして、バックネット裏の座席にて、その歴史的セレモニーに立ち会ったのだ。
 
全日本対メッツの試合については何の記憶もない。ただ水道橋からの帰り道、たしか新宿のレコード屋に立ち寄ったとき、勉兄さんがレコードを買ってくれたことは忘れることはない。その1枚こそネヴィル・マリナー指揮のバッハ「ブランデンブルク協奏曲」だったのである。ただし、全曲ではなく3番、4番、5番を納めた国内盤であった。

 もちろん、これはマリナーの古い方の録音で、サーストン・ダート博士校訂譜によるもの。第3番に第2楽章があったり、第4番では2本のリコーダーに通常のアルトより1オクターヴ高いソプラニーノが用いられたり、第5番の第1楽章では聴きどころであるべきチェンバロのカデンツァが異様に短かったりするなど、一風変わったものなのである。しかし、それがわたしの最初のレコードにおける「ブランデンブルク協奏曲」体験となった。ついでながら、4番の第1ソプラニーノ・リコーダーを受け持つのが、天才デイヴィド・マンロウであることを認識したのはずいぶん後のことである。



さて、それから32年後の10月2日のこと。大阪フィル「海道東征」合わせ前の僅かな時間に飛び込んだディスクユニオン大阪クラシック館にて購入したのがマリナー指揮のバッハ: ロ短調ミサ(蘭フィリップス 3LP)。

試聴して、その清新にして溌剌とした音楽運びに、こんなに凄い演奏だったのか! とその実力を再認識。良いレコードが買えたと嬉々として大阪フィル会館に向かったのである。92歳の巨匠の訃報が飛び込んできたのは、まさにその時だった。

この4月、オペラシティ・タケミツホールで聴いたプロコフィエフ: 古典交響曲、ヴォーン=ウィリアムズ: トマス・タリスの主題による変奏曲、ベートーヴェン: 交響曲第7番は、マリナーの師ピエール・モントゥーの音楽を彷彿とさせる真の巨匠の指揮ぶりだった。

もちろん、モントゥーの指揮姿を生で見たワケではないのだけれど、老境において若々しい音楽、洗練された趣味と格調の高さ、そして背中の語る人間の暖かさと大きさがモントゥーを思わせたのだった。

マリナーについては、N響ほかへの客演指揮を聴き損ねたことは悔やまれるが、たった一度でもその実演に触れたことの幸せを噛みしめている。

どうぞ安らかにお眠りください。

♪上の写真は、ロ短調ミサのレコード付属のブックレットより。

 
 
 
 
 
 


アルトゥール・モレイラ・リマのショパン

2016-08-08 22:11:00 | レコード、オーディオ



リオデジャネイロ・オリンピック開催中だから、というワケでもないが、リオデジャネイロ出身のピアニストによるブラジル・プレスのレコードが手に入った。我が家には数万枚レコードはあるが、ブラジル盤というのははじめてではなかったか?

ピアニストの名は、アフトゥール・モレイラ・リマ。1940年生まれ。1965年、第7回ショパン・コンクールで第2位というが、この時の優勝はアルゲリッチであった。



どうやら、ショパン独奏曲全集のうちの第1巻「21のノクターン」と第2巻「4つのスケルツォと19のワルツ」各3LPのようだ。詳細な録音データの記載はないが、第1巻のレーベルには1982年、第2巻には1983年とクレジットされている。初期デジタル録音のアナログ音盤ということになる。



まずは、ワルツ集に針を降ろす。
演奏はたいへん正統的で、ラテン気質剥き出しの弾けたパフォーマンスを期待すると肩透かしを喰らう。タッチの明晰さ、リズム感の卓越さが感じられて心地よい。

しかし、アルトゥール・リマの素晴らしさをより実感出来るのは、次に針を降ろしたノクターン集である。ここにある人生の憂愁と哀感は本物だ。表面より内面に燃えたぎる情熱もある。こうなると、彼のバラードやマズルカも聴いてみたくなる。緩やかに探してみよう。

追記
印象の違いは、楽器の違いによるものも大きいと思われる。ノクターンはブリュートナー、ワルツはスタインウェイ。この場合、心の琴線をかき鳴らすのは断然前者のようだ。


遥か先の音楽

2016-07-27 00:10:08 | レコード、オーディオ
青春時代に夢中になって聴いたレコードが、装いを新たに再発された。オリジナル・マスターテープに遡ってのリマスタリング、さらに重量盤へのプレスされたというので、懐かしさから思わず入手した。

ようやく時間のとれた今宵、胸の高鳴りを抑えつつ針を降ろしたものだが、意外にも酔うことができない。そんな自分に戸惑ってしまった。

音楽の大きさや情熱は、十二分に伝わるのだが、弦楽器の音の薄さ、全体のピッチの甘さがどうにも気になって音楽に没入できないのである。

新しいマスタリングによって、かつて聴こえなかった技術的な粗が見えるようになったのか? 否、そうではあるまい。音楽を生業として四半世紀を過ごすうちに、自分の耳や感性が変わったのだと思われる。このレコードを昔のように楽しめないという一抹の寂しさはあるが、それを喜ぶべきものとして受け入れたい。

自分がこれから創り上げる音楽は、遥か先にあるのだ。








大事業に取りかかる

2016-07-08 14:33:05 | レコード、オーディオ

ブログの更新を怠り、「最近、何やっているんだ」とのお叱りの声もないではない。

体調が思わしくないわけではない。

 

いま、ブログが書けないほどの大事業に取りかかっているのである。

それは、オーディオルームの大掃除である。

棚から溢れ、床一面に並べられたレコードを何とかしないことには、客人を招けないばかりか部屋の音響にもよろしくない。

しかし、これが、想像を絶する難事業。

買うは易し、処分するは難し。

週末からは、大阪フィル500回定期に集中するので、残された時間も僅か。

どうやら、この難事業の完成は、リオのオリンピック会場が完成するよりも可能性が低そうである。

写真は、黒澤明の描いた「乱」絵コンテより「楓の方」。そのリトグラフ。

怠けそうになったとき、この怖い目を見て、心を奮い立たせているのだが・・・。

 

 

 

 


宇野功芳先生のご冥福をお祈りします

2016-06-12 09:28:29 | レコード、オーディオ



今朝、宇野功芳先生の訃報が舞い込んできました。

喪失感。
いまは多くのことを書くことができません。

まだ中学生だったわたしが、石橋メモリアルホールで聴いた日本女声合唱団との第2回リサイタル(メインは「水のいのち」)。そのアンコールで演奏されたレーガー「マリアの子守歌」の究極のピアニシモが今も耳朶から消えません。

「眠れ、我が子・・」
あのような純粋でひたむきで、そして張り詰めて透明な女声合唱の響き。気が付けばそれを追い求める自分がおりました。人の人生を決定付けてしまうほどの魅力が、宇野功芳先生の女声合唱指揮にはありました。

その女声合唱の達人である宇野先生のもとで、跡見学園のコーラスでヴォイストレーナーをさせて頂けたことも大きな歓びでした。
「魔笛ファンタジー」でモーツァルトの哀しみと微笑みを教わりました。「ねむの花」「石臼の歌」など中田喜直作品の音楽の作り方は、いまも大きな指針としてわたしの中に生きています。

実際にお話しすると、その文章のような毒はなく、お酒、食事、電車、女性を愛するお茶目な方でした。ご執筆においては締切に1日たりとも遅れることなく書き上げる職人中の職人でありました。

その魅惑的かつ独断に満ちた文章によって、我が青春の日々を豊かにしてくださったこと、合唱指揮の素晴らしさを教えてくださったこと、音楽評論の世界にに誘ってくださったことに感謝を捧げたいと思います。

どうぞ安らかにお休みください。

合掌。

追記
最近の宇野先生の文章しか知らない方には、「たてしな日記」のご一読をお薦めしたい。ここには瑞々しい感性による美しく純粋な魂の叫びがあります。


17年間のご愛顧に感謝 ~ 新版クラシックCDの名盤・演奏家篇 増刷 

2016-04-12 13:32:30 | レコード、オーディオ



文春新書「新版クラシックCDの名盤 演奏家篇」 宇野功芳・中野雄・福島章恭 共著

本年4月5日付けにて増刷して頂きました。

「クラシックCDの名盤」旧版の上梓以来、すでに17年の歳月が流れました。長年のご愛顧に心より感謝致します。

ここで、文春新書「クラシックCDの名盤」シリーズ刊行の流れを振り返ってみましょう。

クラシックCDの名盤 1999年10月 374頁

クラシックCDの名盤 演奏家篇 2000年10月 374頁

新版 クラシックCDの名盤 2008年7月 470頁(96頁増!)

新版 クラシックCDの名盤 演奏家篇 2009年11月 456頁(82頁増!)

クラシックCDの名盤 大作曲家篇 2014年12月 282頁

因みに、「クラシックCDの名盤」という書名の命名はわたしでした。

姓名判断にこだわりがあるため、画数はもちろん、声に出したときのリズムや響き、見た目のインパクトなどいろいろ考えた結果です。

さらに留意したことは、「片仮名、平仮名、漢字、アルファベットをすべて含めて多様性を持たせる」ということ。そういえば、a i u e oの5つの母音もすべてありますね。短い書名の中に左記のすべて入れられたのは我ながら会心のファインプレーでした。

本書が17年間も生きつづけているということは、内容が第一であることは勿論ですが、書名も些かは貢献できたのではないか?と自負しているところです。

旧版以来、なんだかんだ言われながらも読み継がれていることは、嬉しいことです。世の中、なんだかんだ言われずに消えてゆく本の方が、圧倒的に多いのですから。

因みに、最後の「大作曲家篇」について、わたしは書名を変更することを希望しました。いまさらCDの時代でもないし、新しい風を起こすべきではないか、ということで。

実際、出版間際まで書名が決まっていなかったので、「クラシックCDの名盤」というつもりでは執筆していません(笑)。それは、宇野功芳先生、中野雄さんも恐らくは同じで、三者の対決姿勢(?)が薄まっているのもそのためでしょう。

結局は、「お馴染みの書名の方が安定して売れるだろう」という営業の判断で、大作曲家篇に落ち着いたようです。

覚悟はしていましたが、宇野功芳先生が事実上の断筆宣言をされたことで、本当に最後の「クラシックCDの名盤」となってしまいました・・・。

話は戻って「演奏家篇」。

万一、旧版しかお読みでない方には、新版を手に取って頂けると幸いです。上記青文字の通り、大増ページに加え、とくにわたくし=福島章恭は、旧版での若気の至りを書き改めておりますので・・・。

今後とも、どうぞ宜しくお願いします。

 




35年前の新譜 ブーレーズの「ジークフリート」

2016-04-10 12:24:45 | レコード、オーディオ
東京春祭、ヤノフスキの「ジークフリート」二日目を前に、今朝はブーレーズ&バイロイトの「ジークフリート」、1981年頃リリースの未開封アナログ盤に通針。第1幕を聴く。



新品同様の筈が、いざ針を下ろすとバキバキと雑音だらけ。ビニールでシールドされていたとはいえ、35年も放置しておくとこうなるのか。
そこで、話題のOYAGクリーナーで磨いたところ、今度こそ新品同様のクリアな再生音となった。めでたし。



しかし、ブーレーズにとっての不運は、これがデジタル初期の録音であることだろう。レコード盤で聴いても、いかにも密度がなく、スカスカのサウンドなのは否めない。もともと透明度重視、音圧の高い類いの演奏ではないが、この希薄はそのせいではなかろう。

バーンスタインのマーラーのようなアナログ・マジックは起きなかった模様。いやあ、本当に惜しい。

マイソニックラボとZYXのコラボレーション

2016-04-06 00:00:43 | レコード、オーディオ

マイソニックラボのモノーラル・カートリッジ Eminent Solo。

第一印象こそ良かったのだが、我がシステムでの籠もり気味の再生音に不満の募る日々が続いていた。

こんな筈はなかろう、と意を決し、シェルを純正からZYXに交換したところ、音に生命力が宿った。

高域に得も言われぬ艶が出てきたのは何より。

ここまで変わるなら、リード線もZYXその他に交換したいところだが、ここは焦らず、エージングが進んでどんな変化が訪れるかを見守ることとする。

因みに、本日聴いたレコードはこちらの新譜(2枚組)からベームのブラームス「1番」。

 

【LP-1】

・ブラームス:交響曲第1番 ハ短調 Op.68

カール・ベーム(指揮)、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ライヴ録音:1954年11月6日/楽友協会 大ホール(ウィーン)

【LP-2】
・ブラームス:交響曲第4番 ホ短調 Op.98

カール・シューリヒト(指揮)、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

ライヴ録音:1965年4月24日/楽友協会 大ホール(ウィーン)

http://www.kinginternational.co.jp/classics/altlp-08990/

ベームのブラームス「1番」は、ベルリン・フィルとのスタジオ録音という決定盤があるが、演奏そのものの凄まじさはこちら。

50年代のウィーン・フィルのなんという音! なんというアンサンブル! そして、ベームによる剛毅な音楽づくり。

録音状態は、第2楽章に音の揺れはあるものの、概ね良好。

マスタリングも上手くいっているのではないか?

少なくとも、かつて、オルフェオレーベルからリリースされた一連のライヴものの「低音のない」マスタリングとも一線を画している。

その後は、メンゲルベルクのスタジオ録音などでEminent Soloの音を楽しんだ次第。

シューリヒトの「4番」を聴きたいところだが、それは次回の楽しみにとっておこう。

 

 


ベームの「ナクソス島のアリアドネ」

2016-04-02 00:32:31 | レコード、オーディオ

ブックオフにての、今日の収穫。
持っているようで、まだ持っていなかった名盤。
ドイツ・プレス3枚組、なんと500円! 
そこそこ汚れていたけど、クリーニングして再生したところ、素晴らしい音でした。

やっぱり、ベームの「ナクソス島のアリアドネ」は、良いですねえ。

駐車無料券を貰うため、店内を覗いたところ、出会いがありました。とはいえ、稀少盤と言うほどではなく、オークション等でもよく見かける品ではあります。

R.シュトラウス:歌劇『ナクソス島のアリアドネ』全曲
DG 2709 033

 ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(音楽教師)
 タティアナ・トロヤノス(作曲家)
 レリ・グリスト(ツェルビネッタ)
 ヒルデガルト・ヒレブレヒト(アリアドネ)
 ジェス・トーマス(テノール歌手、バッカス)
 バリー・マクダニエル(ハルレキン)ほか
 バイエルン放送交響楽団
 カール・ベーム(指揮)

 録音時期:1969年9月20-28日
 録音場所:ミュンヘン、ヘルクレスザール
 録音方式:ステレオ(アナログ/セッション)

ところで、ブックオフで、クラシックのオリジナル盤を買い取ってくれる模様! 皆さんお急ぎください。

ボクはあとから買いに行きます(笑)。

 


愛に溢れたジャン=ピエール・ランパルのハイドン

2016-03-30 23:53:55 | レコード、オーディオ

マタチッチのベートーヴェンを再生するためモノーラル・カートリッジを装着したのをよい機会に、ベルリンで購入してきたレコードの1枚を聴く。
カール・リステンパルト指揮ザール室内管によるハイドンの3つの協奏曲。
即ち、フルート協奏曲ニ長調、二本のホルンのための協奏曲変ホ長調、オーボエ協奏曲ハ長調という組み合わせ。
中では、久し振りに聴く(青春時代は本当によく聴いた)ランパルのフルートの調べにグッと惹かれた。なんと愛に溢れた音だろう。もちろん、オーボエの名手ピエルロの歌心も胸に響いた。優秀録音で知られるディスコフィル・フランセの香るような音も堪らなく魅惑的。

レコード番号: 仏 DF730.061

  • Concerto pour flute et orchestre en re majeur / Concerto for flute and orchestra in D major
  • Concerto pour deux cors et orchestre en mi bemol majeur / Concerto for Two Horns and Orchestra in E flat major
  • Concerto pour haubois et orchestre en ut majeur / Concerto for oboe and orchestra in C major
  • Jean-Pierre Rampal - flute
  • Andre Fournier & Gilbert Coursier - horn
  • Pierre Pierlot - oboe
  • Orchestre de Chambre de la Sarre
  • Karl Ristenpart - conductor