福島章恭 合唱指揮とレコード蒐集に生きるⅢ

合唱指揮者、音楽評論家である福島章恭が、レコード、CD、オーディオ、合唱指揮活動から世間話まで、気ままに綴ります。

世界最高峰のホールで極上の演奏を聴く ~ デンマーク四重奏団

2018-05-31 07:37:38 | コンサート


今回、忙しい最中、14日間ものお休みを頂きアムステルダムを訪ねているのは、6月7日(木)、8日(金)、10日(日)に行われるハイティンク指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管によるマーラー「9番」を聴くためである。
演奏会チケット、宿、航空券を抑えたのは、前回のアムステルダム訪問の7か月前、昨年6月のこと。今思えば、5月30日(水)入りというのは些か早すぎたが、その時はまだ見ぬコンセルトヘボウへの憧れが異様なまでに膨れ上がり、気がつけば日程が延びてしまっていたのである。



最初の夜は、コンセルトヘボウ小ホールにて、デンマーク四重奏団を聴いた。

ハイドンop.1-1、メンデルスゾーンop.13、ベートーヴェンop.132という魅惑のプログラム。

デンマーク四重奏団の実力を思い知らされるのに、ハイドンの最初の数小節を聴けば十分だった。

たとえば、第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリン、第2ヴァイオリンとヴィオラという組み合わせによる三度のアンサンブルが、音程、歌い回し、バランスともに極上なのである。つまり、演奏行為に於ける基本中の基本が盤石なのだ。

もちろん、それは教科書的な模範演奏に終わる筈もなく、4人がそれぞれに個性ある歌心と、それぞれに美しい音色を持ちつつ、全体として黄金の調和を生み出している。目先の斬新さは求めず、古楽器的な奏法には目もくれず、まさに王道中の王道を往く弦楽四重奏がそこにあった。

メンデルスゾーンでは、第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンが入れ替わり、一転、激情とも呼べる濃厚なロマンの歌を聴かせた。時に4人のソリストがぶつかり合い、時に親しく融和し、その表現の振幅の大きさ、熱さは類い希なものであった。

第1ヴァイオリンの調べは、コンチェルトの独奏にしてもよいほど雄弁であり、ああ、これほどの溢れる情熱を持ち合わせた人が、第2ヴァイオリンを弾いての、あのハイドンなのか、と得心した次第。

休憩後は、再びパートの受け持ちをハイドンのそれに戻してのベートーヴェン。それはそれは、ベートーヴェン晩年の深遠にして神々しい音の宇宙。ピリス・リサイタルにつづいて、この短い期間に二度もベートーヴェンの崇高さを体験できたことに感謝。

アンコールに於けるデンマークの民謡も、古い聖歌を聴くように心の深部に響いた。

コンセルトヘボウ小ホールの音響も理想的だ。世界中の音楽ホールを知るアムステルダム在住のヴァイオリン製作者・岩田立さんによれば、コンセルトヘボウ小ホールは、ロンドンのヴィグモアホールと並び、室内楽に於ける最高峰とのこと。それだけに、演奏家にとっては、ちょっとした表面上のミスから、心の動きまでもが、全てが聴衆に晒されてしまう恐ろしいホールでもあるらしい。

なお、いま検索したところ、6月8日(金)には武蔵野市民会館小ホール(表記はデニッシュ四重奏団)にて、翌9日(土)には名古屋市の宗次ホールで、彼らの演奏が聴ける模様。

前者ではベートーヴェン、後者ではメンデルスゾーンと民謡が聴けるというから必聴である。もし、まだチケットが残っているなら、否、残っていなくとも、何としても入手すべきだ。