福島章恭 合唱指揮とレコード蒐集に生きるⅢ

合唱指揮者、音楽評論家である福島章恭が、レコード、CD、オーディオ、合唱指揮活動から世間話まで、気ままに綴ります。

井上道義 マーラー『千人の交響曲』東京芸術劇場presents 

2018-10-05 10:05:34 | コンサート

井上道義先生とマーラー「8番」をご一緒させて頂くのは、名古屋マーラー音楽祭の最終公演(2012年7月)以来のことである。

前回は独唱陣を除いたオール・アマチュアのオーケストラとコーラスによって巨大な音伽藍を築きあげたが、今回は合唱を首都圏音大合同コーラスが受け持つという前代未聞の企画である。

初の試みと言うこともあり、コーラスのレッスンにあっては様々な困難にも当たったが、結果として、多くの聴衆に感銘を与える演奏となったことを歓びたい。

かくいうわたしも、客席で演奏に接し感動したひとり。二部の終結部では背中に電気の走るほどに痺れたが、こんな経験は実に久しぶりのことである。

本番のマエストロは絶好調で、それに付けてくる読響もお見事というほかなかった。

ソリスト陣では、池田香織の存在感が圧倒的で、それに福原寿美枝がつづいた。

TOKYO FM 少年合唱団は、今の日本には稀少な男の子ばかりのコーラス。少ない人数ながら、無垢で一途な歌唱に心洗われた。

さらに望むことがあるとするなら、もっとたくさん合唱のレッスンをしたかったの一事に尽きる。

発声や表現に関して、時間の制約から福島章恭の美学を隅々まで浸透させることは適わないため、学生たちのゆきたい方向に思い切りゆかせる方針をとったが、ある意味でそれは成功したと言えるだろう。

実際、オーケストラ合わせ、ゲネプロにかけて、わたしの介入する隙間もないまま、学生たちはグングンとマエストロと一体になる術を習得し、ホールの空間に慣れ、オーケストラと融合することに成功してくれた。

東響コーラスメンバーをはじめとする盤石の支えを得たこともあり、実に伸び伸びと彼らの現状の力を遺憾なく発揮するパフォーマンスとなったのである。

さらに時間が与えられていたなら、力に頼らないフォルティシモ、細やかなアーティキュレーションとハーモニーに対応した声の色の変化、テキスト理解の深化、神秘の合唱に於ける究極のピアニシモの追求などが達成された筈である。しかし、彼らの若いパワーには、これらを一瞬忘れさせてくれるだけの魅惑はあったし、何より各パート内でのピッチの統一感は気持ちの良いものであった。

また、第二部では、オーディションで選抜された天使のコーラスが美しいアンサンブルを聴かせてくれた。ブラーヴィ!

ただ、天使のコーラスについては、本番直前にひとつ判断を誤った。咄嗟のことだったとはいえ、してはならない過ちであり、未だ心に棘が刺さったままでいる。

彼女たちに深く詫びたい(と言えば、分かってくれるだろうか?)。

とまれ、この首都圏音楽大学合同コーラスという夢企画、初回から成功であったことは疑いない。

東京芸術劇場の企画力と実践力なしにはなし得なかった快挙であり、次回以降への期待が膨らむばかりだ。

 

東京芸術劇場presents

井上道義&読売日本交響楽団 マーラー/交響曲第8番『千人の交響曲』

2018年10月03日 (水)19:00 開演(ロビー開場18:00)
東京芸術劇場コンサートホール
マーラー/交響曲第8番 変ホ長調『千人の交響曲』
   指揮:井上道義

ソプラノⅠ(いと罪深き女):菅英三子
ソプラノⅡ(贖罪の女):小川里美
ソプラノⅢ(栄光の聖母):森麻季
アルトⅠ(サマリアの女):池田香織
アルトⅡ(エジプトのマリア):福原寿美枝
テノール(マリア崇拝の博士):フセヴォロド・グリフノフ
バリトン(法悦の教父):青戸知
バス(瞑想する教父):スティーヴン・リチャードソン

首都圏音楽大学合同コーラス
TOKYO FM 少年合唱団
合唱指揮:福島章恭
読売日本交響楽団