福島章恭 合唱指揮とレコード蒐集に生きるⅢ

合唱指揮者、音楽評論家である福島章恭が、レコード、CD、オーディオ、合唱指揮活動から世間話まで、気ままに綴ります。

パウルにも勝る狂気

2014-03-25 09:51:31 | コンサート
昨日は、初台から上野へ移動しながらの走り書きだったので、ここに改めて・・・。

新国の「死の都」。素晴らしい公演だった。
昨日の書き方だとあんまり感激していないような印象を与えたかも知れないけれど、そんなことはない。
大いに楽しんだ。

なんと言っても、曲が面白く、美しい。
リヒャルト・シュトラウスの「影のない女」「バラの騎士」「エレクトラ」、プッチーニの「トスカ」「ボエーム」「トゥーランドット」などの影を感じながら、どこか未来のハリウッド音楽をも予感させる。
第1幕など、そのごった煮のようなところもあるけれど、その整理されていないところが魅力だったりする。
ただ、自分の趣味から言うと、ワーグナーやシュトラウスと同等、とまではいかない。
(でも、これはコルンゴルト23歳の作であって、もしナチスの台頭がなければ、後のコルンゴルトはもっと凄いオペラを書けていたかも知れない。
もちろん、歴史に「もしも」は禁物なのだけれど・・・)

歌手陣も充実していた。
トルステン・ケールは、本日パウル役100公演を迎えたと言うから凄まじいものだ。
幕間にお会いした金子建志先生も「ジークフリート歌うより大変なのでは」と指摘されていたハードな役を、この5公演のみならず、何年間も歌い続けるタフさには恐れ入るし、感情移入の仕方も半端ではない。
不謹慎な僕には、亡き妻の思い出にあそこまで固執する主人公パウルになかなか共感は持てないのだけれど、ケールのテンションの高さには思わず引き込まれてしまった。

ミーガン・ミラーのマリエッタもよかった。
踊り子マリエッタの奔放さと情熱、その裏の寂しさが本当によく伝わってきた。

フランクとピエロ2役のバリトン、アントン・ケレミチェフは、2幕のピエロのアリアが圧巻。
さらに、山下牧子の演ずるブリギッタが、声の深さや立ち居振る舞いにおいて、抜群の存在感を誇ったことは、個人的にも嬉しいことであった。

演出については、予習したフィンランド公演のDVDも同じカスパー・ホルテンのものだったので、他との比較はできない。
これだけを観れば、色彩的にも美しく満足なのだが、びわ湖公演を観た人々の共通する感想としては「栗山昌良演出の方が作品の本質に迫っていた」ということ。
今となって観てみたかった気がする。

歌手のみならず、オーケストラにとっても、難曲であることは間違いなく、「命をかけて臨んだ」という東京交響楽団の演奏は美しかった。
ただ、キズリンクの指揮は、もっとドラマに肉薄してもよかったのでは? と思わせた。

第1幕の終わりのリズムにはもっと狂気があってもよかった。
第2幕冒頭をはじめ、歌のないオーケストラのみの部分にもっと凄絶さがあってもよかった。
第2幕、マリエッタがパウルを誘惑する場面、もっとゾクゾクするような官能性があってもよかった。
第3幕、パウルがマリエッタを絞殺する場面、もっと血も凍るような音が創れなかったものだろうか?

などなど、1度目の鑑賞では、音楽や物語の展開だけに夢中になったけれど、2度目にはこちらにも余裕ができて、余計なことを思ってしまう。
しかし、クナやミトロプーロスの振るシュトラウスのような音を求める僕の方が、パウル以上に狂っているのかも知れない。



写真は、開演45分前の開場風景。






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