明鏡   

鏡のごとく

太宰府天満宮の茅葺と庭

2019-03-11 22:53:58 | 茅葺
先日、太宰府天満宮の宮司さんの御宅の茅葺の屋根の補修をさせていただいた。

先輩の上村さんの手を見ながら、すみの茅の手入れのやり方を拝見しながら、茅や足場を運んだり、道具を用意したりとめまぐるしく動いていると、庭を手入れされている方がおられ、お話をさせていただいた。

美しい庭と美しい茅葺の屋根。

そこにおられる方々の内面がじわりとゆるりとにじみ出ているようで、隅々まで行き届いたものの美しさは一日一日の積み重ねだと改めて思い至った次第であった。

禰宜の方に、二年前、ちょうど、茅葺の仕事に携わるようになる直前に、菅原道眞公の住んでいたとされる家の跡が見つかったという話をお聞きしていたが、まだ、その場所に行き着いていないことをお話しすると、丁寧に教えていただいた。

何かのご縁で偶然、住んでいた家のことを知ったからには、今度、そこに伺い、かつては茅葺だったかもしれないと言われていた建物を拝見させていただき、道眞公の思いのような存在のようなものを、時代を超えて感じてみたいと思われた。

イチゴと沈丁花とろうそく

2019-03-11 20:40:26 | 詩小説
八年前の今日
父がいた家でうたた寝をしていた
子供の用事で立ち寄って疲れて眠ってしまったのだ

あの日も父の介護と子供の世話で寝不足だった
どうしても外に出たいと父が言うので
退屈していた父を外に連れ出したのだった
八百屋でイチゴを孫に買うんだという父の願いを
ありがたいと思いつつ
疲れて眠い目をこすりながら赤いイチゴを見ていた
ヘルメットをかぶった男が八百屋に入ってきて
東日本で大きな地震があったらしい
と店の人に話していた
イチゴのつぶつぶが妙にくっきりと見えて一気に目が覚めた気がした
イチゴはなの母の笑い顔が浮かんだ
母に電話をしたが
つながらなかった
東京も危ない
母や親戚の者たちが無事かを確かめずにはいられなかったのだ

うたた寝から目が覚めて
どこからか沈丁花の花の匂いがしてきたような
幻の匂い 匂いの幻のような歌が聴こえるような気がしていた

息子よ
ここは荒れ果てた砂漠だよ
咲くはずだった沈丁花の代わりにお前は生まれたよ
お前に見せるはずだった思い出全部割れちゃった
どこまで行こうかどこまでも続くレンゲの海
息子よお前が生まれる少し前
希望の全てが朽ち果ててみんな泣いていたんだよ
ごめんね息子よ
新しい鉢を買ってきたよ
お前に見せるはずだった
小さな小さな沈丁花
どこまで行こうか どこまでも続く水平線

夜明け前に夜の淵にあっても心にろうそくを灯す歌と一緒に
手をつなぐように歌ってほしいのだった
どこかで救われている人がいますように
ここで救われているものがいるように
心を満たすように
手をつなぐように歌ってほしいのだった