こくご食堂

小学生向けこくご塾を創業しました。[こくご]の楽しさを、様々な切り口から発信していきたいと思っています。

「買いに来る 売ってもらいに来る」

2020-09-17 17:25:00 | 言葉
こくご食堂本日のお話は
「買いに来る 売ってもらいに来る」

日本語というものは、実に難しい。
日本語に限らないかもしれないですが、今回、それを感じました。

数週間まえのこと。

野うさぎを食べたことがある母の話になりました。

野うさぎを食べたあと、その毛皮を軒下に干しておくと、
「戦地にむかう人の家族がそれを買いに来る。防寒につかうんだよ。」
と母。
話題の内容がセンセーショナルでした。

野うさぎを食べる。
毛皮を干す。
それを求める人がいる。

生き物をいただき、それを無駄にせず活用するのは、山の住民の知恵。

感心をして
「そうか。うさぎの毛皮を『売ってもらいに来る』人がいるんだね。
と私。

「?なんかへんな言葉だね。うさぎの毛皮を買いに来るんだよ。」

「だから、戦地にいく人の家族がうさぎの毛皮を『売ってもらいに来る』んでしょ。」

子供にもどった私は、ムキになっていました。

ずーっと黙って聞いていた父が
「同じこといってるよ。」
と呟いて、ベッドへむかいました。

ハードボイルド。

しばらく、同じやり取りをして、はっとしました。

「あれ、こくごの先生だったよな。私。」

この場合、『買いに来る』がすっきりです。

『買いに来る』は、主語は戦地にいく人の家族。野うさぎの毛皮を干していた母の家に、毛皮を買いにやってくるイメージ。その動作をストレートに表現しています。


『売ってもらいに来る』は、主語は戦地にいく人の家族で上記と同じ。しかし、うさぎの毛皮を買いに来る人の心情を表しています。野うさぎの毛皮は希少価値があり、やっとみつけて購入できて嬉しい、というイメージ。これは、この言葉を発した私の、強い思い入れです。

それを母に伝えたかったのです。

文章としては、
『買いに来る』
が模範解答です。簡潔!

しかし、やっと買えるという状況からは、
『売ってもらいに来る』
が有効です。

と、ここまで書いて。

「どっちでもいいかな。
と、おもってきました。

いずれにしても、言葉を選ぶとき、故意にまどろっこしい表現をするのも、面白いということです。

簡潔だけがすべてではない。

それが、日本語。

下らない言い争いをした後、(さして、争ってもいないが)シジミの味噌汁を母につくってもらいました。

おいしい。

最後は食べ物でおわる。
私らしいかな。



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