猫に秋は深まる

 公園は、まるで落ち葉のじゅうたんだ。風が吹くと、銀杏の大木から黄色く染まった葉っぱがひらりひらりと無数に落ちてきて、遊んでいる子供たちは大喜びする。
 コンクリートでできた小さな滑り台の向こう側に、何か黒っぽいものがあった。よく見ると猫である。滑り台の横の吹き溜まった落ち葉の上に、弱い太陽の光を浴びて眠っていた。
 違和感のある風景だった。公園にはたくさんの子供たちが騒がしく遊んでいるのに、黒猫はそれが目に入らないかのように眠っている。子供たちも猫がいることを知らない。猫の周りだけが別の時間で動いているかのようだった。
 黒猫は死んだように動かない。近寄ってみると、緑色の目をわずかに開いただけだった。私は猫をそっとしておいて、息子と別のほうへ遊びに行った。
 しばらくして誰かが猫に気づき、二組の親子が黒猫を遠巻きにして見ていた。二歳くらいの女の子が、「にゃん、こわい」とお母さんの後ろに隠れた。女の子は猫よりずっと大きく、おそらく猫のほうが女の子を怖がるだろうに、おかしな話だと思った。
 男の子が落ち葉をかさかさ言わせながら近づいたので、猫はさっと起き上がり、振り返り振り返り小走りに向こうへ行ってしまった。哀れというほどにはやせていないが、よい肉付きでもない。毛もつやがなかったので、具合が悪いのかもしれなかった。子供たちが周りにいるのも承知のうえで、暖かい落ち葉のベッドでからだを休めていたかったのだろう。
 猫は公園の柵をくぐって、少し離れた木の根元にうずくまった。日の当たらない場所で、黒猫は寒そうにこっちを見ていた。
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