みゆちゃん物語(中篇)―予断許さず

 私たちが寝ている間に、子猫が死んでしまうのではないかと気がかりだった。が、次の朝、子猫は生きていた。ひとつ、峠を越したように思った。
 昨夜に比べるとだいぶ落ち着いたように見えた。皿に水を入れて口元へ持っていくと、自分で飲んだ。大きな前進だ。助かるかもしれない。ただ、血尿が出続けていた。
 家の近くの動物病院へ連れて行った。
 骨盤が粉砕骨折しているようですし、下半身は麻痺しています。それに、血尿がとまらないのであれば、膀胱が破裂している可能性もあります。
 獣医師は子猫を抱き上げると、うしろ足が診察台の端にかかるようにした。健康な猫なら台に上ろうとするのですが、この子はそうしないでしょ。次に、後足の肉球の間をきゅっとつねった。健康な猫はこうすると痛いので足を引っ込めるんですけど、この子は痛みを感じないと思いますよ。ほらね。子猫の足は力なくだらりとしたままだった。
 私は気分が悪くなった。利己的な考えだって浮かばなかったわけではない。子猫が助かったとしても、もし車椅子になってしまったら、ただ通りかかったというその縁だけで、私の人生は大きく変更せざるを得なくなるだろう…
 そして再び獣医は私に選択を要求した。レントゲンや血液検査といった、一歩進んだ医療をしていくか否か。費用もそれなりにかかってくる。さらに、レントゲンの結果、骨折部位をつなぐ手術を受けるとなると、二十万ほど必要だということだった。さすがにそこまではできなかった。
 これからこの猫をあなたのうちで飼っていくのであれば、精密な検査をするのもよいでしょうが、ただ通りがかりに出会っただけですから、割り切って対症療法のみをとるというのも、一つの選択だと思います。
 少し考えさせてくださいと私は言った。夫に電話をして、話し合った。手術までは無理である以上、精密検査をしたところで、取り得る治療法にあまり変わりはないのではないか。
 対症療法でお願いしますと私は答えた。待合室で待つ間、オルゴールの美しい音色が「きよしこの夜」を奏でていた。涙が、こらえきれずに溢れてきた。クリスマスなのに。どうしてこの子はこんなに苦しまないといけないのだろう。前の日から張り詰めていた精神の疲れもあって、私は待合室で泣いた。(つづく)



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