かつら屋の猫

 かつら屋のショーウインドウに、猫がいた。
 かつらを被った頭だけのマネキンが並ぶ、その間に、招き猫の模様のついた赤い座布団を敷いて、薄いグレイのキジトラの猫が丸まって眠っていた。
 丸い毛の塊みたいに見えるので、最初何かしらと思ったら、本物の猫だった。
 かつら屋の猫は、いつも丸まって眠っていた。かつら屋は南を向いているので、天気のいい日、ショーウインドウはサンルームとなった。太陽の光が眠る猫の背中に集まって、猫の感じる暖かさが、寒い通りから見えるようだった。
 ある日、かつら屋のショーウインドウに、猫の姿はなかった。招き猫の模様の赤い座布団だけが、寂しく陽光を浴びていた。ショーウインドウに溜まった光は、どこか無機的に透明だった。
 それから、かつら屋の猫はいなくなった。
 やがて、招き猫模様の赤い座布団も片付けられた。ショーウインドウは配置換えされて、猫がいなくなった空間には、黒い招き猫が遠慮がちに座った。
 かつら屋のショーウインドウは、がらくたの入った飾り棚みたいに、古く悲しくなった。


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