お雛祭り

 実家には、母方の祖父母が買ってくれたお雛様があって、子供の頃には、桃の節句のたびに、お座敷に華やかな姿を見せたものであった。
 雛人形を飾る作業は楽しい。父や母に雛壇を組み立ててもらい、赤い毛氈を敷いてもらったあとで、納屋から幾つもの人形の入った白い紙箱を運んで、お座敷で開ける。同じような箱であるから、中がなんであるかは開けるまでわからない。ふたを取って、人形を包んである柔らかな薄い紙をそうっとはがして、それがお雛様であったら、大当たりで、得意でうれしいのである。雛壇の一番上に置いて、胸元に掲げられた白いたおやかな手の上に、長い房のついたきれいなお扇子を持たせてあげる。ほかには、黄色い実のついた橘の木や、ガラス玉の目が本物そっくりな、黒毛の牛がひく牛車などが好きであった。
 もうお雛様が飾られなくなって久しいけれど、今でも、桃の節句の頃に実家へ帰ると、母がちらし寿司を作ってくれるのが、気恥ずかしくもありながら、うれしいことである。
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