座布団の上の猫

 一歳の息子がソファの上からみゆちゃんの座布団を引っ張り下ろして床に置き、ステージか何かに見立てているのか、その上に立って体操をしはじめた。しばらくすると、どこからともなくみゆちゃんがやってきて、座布団にじゃれついて、息子の邪魔をしだした。息子はみゆちゃんを押しのけようとするが、みゆちゃんも自分の座布団だと思っているので、息子に抵抗する。私は、息子に「これはみゆちゃんの座布団なんだから」と言ったあとで、あれ、と思った。もともとは、みゆちゃんの座布団ではなく、私の座布団である。
 妊娠中、ピアノの椅子が硬く感じられたので、座布団を買って敷いた。座り心地を確かめたあと、ちょっとピアノから離れて戻ってきたら、もうその上にみゆちゃんが丸くなっていた。猫という生き物は、居心地のいい場所をすぐに見つけてしまう。
 初めの頃は、みゆちゃんがいないときには私が使って、私が使っていないときにはみゆちゃんが昼寝をしたりしていたのだけれど、それがいつのまにか、みゆちゃん専用になってしまっていた。
 ポール・ギャリコという人の書いた「猫語の教科書」という本がある。猫の言葉の教科書、という意味ではなくて、猫が猫の言葉で書いた教科書、という設定なのだが、その教えるところは、いかに人間の家庭を支配するかということである。この本によれば、一見、猫は人に飼われているように見えて、実は上手く人間をあやつって、人間の家を支配しているというところが本当らしい。ついつい、猫の言うなりになってしまう、という人は、思い当たる節があるだろう。我が家のみゆちゃんも、無邪気な寝顔を見せながら、思い通り、座布団を手に入れることに成功している。
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