毛虫小道

 琵琶湖疎水の横の小道を散歩していると、縁石の上に何か黒くて長いものが乗っていて、一瞬ムカデかと思ってどきっとしたけれど、よく見たら黒い体に薄い黄色の毛の生えた、大きな毛虫であった。
 桜の木につく毛虫で、琵琶湖疎水の横の小道には桜の木がたくさん植えてあり、春には、染井吉野や、名前の知らない白い花を咲かせる桜が満開になって、疎水の深い水の色に映って爛漫たる景色となる。
 実家の庭に山桜があったときには、この毛虫がよくついた。いま縁石の上を歩いている黒い毛虫は体長が6センチほどもあるけれど、もう少し若い時分には体も小さく赤い色をしていて、その赤い毛虫が、山桜の葉をすべて食べつくし、さらなる食糧を求めて、いっせいに幹を伝い降りだしたのを見たときには、冷や汗が出た。
 黒い毛虫は、縁石の上を小道に沿って、ずんずん進んでいく。おそらく、蛹になるために土に潜る場所を探しているのだろうと思う。野菜についてきた青虫を育てていたら、やがて土に潜って蛹になったことを思い出した。
 一匹だけかと思ったら、小道の前方を、同じような黒い毛虫が一生懸命横切っているのが見えた。もしかしたらそこらじゅうに毛虫がいるのではないかと思って、急に薄ら寒くなって辺りを見回してみたけれど、その二匹以外にはいないようだった。
 さきの毛虫は決まった目的地でもあるかのようにまっすぐ進んでいくのだけれど、あとの毛虫は、もう切羽詰っているのか、小道の端まで来ると、植え込みからこぼれてコンクリートの上にかぶさった土を掘って潜ろうとした。もちろんそんな浅い土の中に潜れるはずもなく、あきらめて、今度は落ち葉の下に潜った。縁石を超えてあと20センチも進めば、深い土があるというのに、言っても伝わらないところがじれったい。
 そうこうしているうちに、さきの毛虫はどんどん進んで、こちらは縁石から雑草の生えた地面に降りて、やはり土を掘ろうとしはじめた。しかし、このあたりの地面はどこも固い。柔らかいからだの非力そうな毛虫に掘れるとは思えなかった。しばらく頑張っていたけれどうまくいかず、落ち葉に潜って誤魔化したりしている。
 そんなことでうまく蛹になれるのかしらと心配になったけれど、それでもやっぱり桜の木には毎年毛虫がつくのだから、どこか蛹になれる場所があるのかもしれないとも思った。
毛虫たちがどうするのか見届けたいと思ったけれど、きりがないので、あきらめて帰った。
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