カマドウマ、現る

 みゆちゃんが、台所でひと跳び、ふた跳びし、何かを追いかけていった。閉めた窓のところまで追い詰めて、サッシュのレールの隙間に逃げ込んだその何かを捕まえようと、手で掻いたり鼻を突っ込んだりしている。ゴキブリにちがいないと思って、憂鬱になった。ニ、三日前に、みゆちゃんが浴室の前の洗濯かごやバケツなんかを置いてある場所に座り込んで、何かを見張っているような様子だったので、そこに隠れていたのが出てきたのだと思った。
 やがて、くるりと踵を返してこっちにやってきたみゆちゃんの口の端から、足とか触覚がはみ出しているのが見えた。どうしようかと思ってうろたえていたら、みゆちゃんが獲物をそっと床の上に置いた。またわざと逃がして、追跡ごっこをするつもりらしい。
 みゆちゃんの頭越しにおそるおそるのぞいてみると、それはゴキブリではなかった。コオロギかと思ったけれど、それも違う。ちょうど、ゴキブリとコオロギの中間みたいな虫だった。カマドウマである。はじめて見た。コオロギみたいに三角形に曲がった後ろ足に、弓なりにカーブした体、恐ろしく長い触角。体長の4倍も5倍もありそうなこの触覚は、いったい何に使うのかしら。
 カマドウマが窓の方へ向って逃げはじめた。追いかけようとするみゆちゃんを抑えて、急いで窓を少し開けたら、カマドウマはすぐにその隙間から庭へ出て行って、事なきを得た。
 密閉性のあまりよくなかった昔の家屋では、カマドウマはよく見られたそうである。それが、最近の住宅ではほとんど見られなくなった。そのカマドウマが現れた我が家というのは、どこかに虫の出入りする穴でも開いているのかもしれない。その証拠に、廊下をダンゴムシが散歩していたり、なぜこんなところにこんな虫が、というようなことがときたまある。
コメント ( 4 ) | Trackback ( 0 )