画狂人・葛飾北斎展

 京都高島屋のグランドホールに、葛飾北斎展を見に行った。
 「赤富士」の名で知られる「富嶽三十六景 凱風快晴」や、北斎といえばこの荒波というほどに有名な「神奈川沖波裏」なども展示されていて、とくに「神奈川沖波裏」は、さほど大きな画面でないにもかかわらず、うねった大波が押し寄せてくるような迫力があった。
 版画の浮世絵師として知られる北斎だけれど、肉筆画にも傑出した作品が多い。以前、日経の日曜版で、北斎の肉筆画が特集されていて、そのときはじめて見たのだけれど、他のどの画人にもない独特な雰囲気があって、切ったスイカの上に置いた半紙に透ける赤い色など、惹き込まれるように新聞のそのページを切り取って残しておいた。
 今回の展覧会にも肉筆画が幾点か出ていた。たとえば、雲間から現れる龍を描いた「雲竜頭」。雲の黒が濃い。82歳のときの作品とは思えないような力強さがある。
 北斎は90歳まで生きた。北斎の時代で90歳といえば、大変な長寿である。しかも、ただ生きたのではない。絵を描き続け、精進し続けた。その証拠に、90歳の時点で画風が改まっている。晩年は、浮世を描いた版画からは遠ざかり、動植物などを画材とした肉筆画に力を注いだ。北斎自身は、さらに長生きして、100歳以降で自己の画風を完成させ、絵画世界を改革することを目指していたのだという。
 さまざまな画号を持つ北斎だけれど、その最後の画号が「画狂老人卍」で、晩年に描かれた鶴や虎の肉筆画には、「画狂老人卍筆」というサインが入っている。
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