今月からいよいよ新シーズンを迎える新日本フィルハーモニー交響楽団。監督に就任した上岡敏之氏も3年目を迎え、あらゆる面で聴きどころ満載のシーズンとなるはず。アントンKも一昨年より鑑賞してきて、今シーズンはその集大成であろうことは、誰に聞かずとも理解できた。この本気度は、今回のプログラム、そして演奏で確信に変わっていた。
オールR.シュトラウスプログラム。こんな無謀な、玄人好みの選曲は、まさに上岡流と言えるだろう。そして彼の、オケの本気度がうかがえる。R.シュトラウスと言えば、多彩な管弦楽で独特な曲調、何といっても難曲ぞろいの楽曲が多いとされる。国内のオーケストラでも今回のような管弦楽曲はなかなか演奏されないのではないだろうか。アントンKは、アルペン交響曲を頂点として、英雄の生涯、家庭交響曲、そして今回演奏された「ドン・ファン」は、今までよく聴いてきた。これは実演でのことで、録音では数知れず鑑賞はしてきたが、そこにのめり込むまでには行かなかった。しかし、もう何年も前のことになってしまうが、サントリーホールで聴いたラトル/べルリン・フィルの英雄の生涯は、今でも宝物だし、朝比奈隆/大阪フィルのアルプス交響曲は、今でもアントンKの生き字引なのだ。
さて今回の演奏会、トータルで思えば、大変見通しの良い温かみを感じた演奏だった。それは、随所で指揮者、演奏者の一体感が音色に現れハーモニーを形作っていくことを感じたからだ。指揮者とオケとの意思疎通がさらに深まり、お互いに本当に音楽を楽しんで奏していることがわかる。時には、微笑みながら、仲間たちの音楽を聴き合っていたのだ。
昔、ベルリン・フィルやコンセルトヘボウの実演に触れたとき、何に一番感激したかと言えば、演奏者たちが自分たちの奏する音楽を楽しんで演奏していることに気づかされた時だった。他のパートでも、自然と身体が動き、まるで自分の音色のごとく音楽の中に入っていることがわかったのだ。
第1曲目のドン・ファンから、ハイテンションで開始され、第1主題の上昇気流に乗ってすっ飛んでいくが、中間部のObの甘いささやきや、Hrnの主要主題の提示は圧倒的で、このHrnの主題のあと、弦楽器にそのパートが移り、素晴らしいハーモニーを放つ箇所。ここは絶品だった。また一番感動したのは、最後に演奏された「死と変容」になる。ワーグナーの影響を受けたとされるテーマが現れ、コーダへと向かう部分は、この演奏会の白眉だったろうか。オケ全体の音色の統一感は最良に示され、上岡氏のまさに求める音楽が、そこに出来上がっていたと思うのである。
R.シュトラウスは、どの楽曲もソロパートが付き物だが、各パートの首席奏者の音色は、雄弁な語りでとても満足。もちろん、コンマスの崔文洙氏のいつにも増した響きは、楽曲にベストマッチし、エネルギーを頂いた思いになったのだ。
今回の演奏を聴いて、弦楽器、木管楽器、金管楽器、打楽器と、それぞれがお互い聴き合いながら主張し、決して打算的にならずに、目の前にある音楽だけを見つめて演奏していることが伝わった。これはマエストロ上岡敏之への信頼の証であり、自分たちの音楽の確立を意味するのではないか。今後ますます楽しみになって会場を後にしたのである。
新日本フィルハーモニー交響楽団 第593回定期演奏会 トパーズ
R.シュトラウス
交響詩「ドン・ファン」OP20
オーボエ協奏曲 ニ長調
交響詩「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」 OP28
交響詩「死と変容」 OP24
アンコール
カプリッチョ 六重奏曲
指揮 上岡 敏之
オーボエ 古部賢一
コンマス 崔 文洙
2018-09-14 すみだトリフォニーホール