アントンK「趣味の履歴簿」

趣味としている音楽・鉄道を中心に気ままに綴る独断と偏見のブログです。

真夏の夜のブル8~井上道義

2019-08-01 20:00:00 | 音楽/芸術

今年フェスタサマーミューザで聴くお楽しみの一つは、井上道義のブルックナーだった。

以前このブログでも記載しているが、井上氏のブルックナーの第8番は過去2回鑑賞する機会に恵まれている。面白い事に、その全てオーケストラが異なるのだが、今回の演奏がやはり過去の2回、そして京都響を振ったCDを含めても、最も素晴らしい演奏に感じた。初めて鑑賞したのは、2016年1月の大阪フィルだったが、あの演奏は、マエストロ井上大病完治直後とも言えるタイミングでの演奏会だったためか、どこか悲壮感漂う壮絶な演奏に感じていた。それから、N響との鎌倉での演奏を経て今回の演奏会へとたどり着く。この3回の演奏会とも、基本的には同一な解釈と言えるだろうが、今回の演奏は迷いがなく革新に迫るものがあったと感じている。晩年のチェリビダッケに指導を受けた経験のあることは、よく伝えられているが、やはりここまで聴いてきて、チェリの影響が色濃く演奏に現れてきたと思っている。

音楽を語るのに、演奏時間のことは言いたくはないのだが、最もわかりやすかったのは、益々演奏が遅くなってきたということだ。今回のミューザ川崎の豊満な響きを最大限に生かすため、井上氏自身がかなり意識していたことは当然だが、この日の演奏は、時計で測れば最も遅い演奏だった。しかし不思議なことに、鑑賞中は全くそんな感覚はなく、あっという間にコーダを迎えてしまった印象。そしてまた、すぐに聴きたくなる衝動に駆られたのだ。

読響のブルックナーと言えば、アントンKにとってスクロヴァチャフスキというブルックナー指揮者を思い出さずにはいられない。彼の読響とのブルックナーはよく聴きに行ったが、ブル8は、最晩年のオペラシティでの演奏が忘れられない。あの時の演奏を思えば、今回は大分熱いものを感じ、また新たな歴史が刻まれた訳だが、読響も流石にブルックナートーンを心得ているのか、響きがまさに最良だったと思っている。

個々にチョイスしては書ききれないが、全体通してHrnの雄弁な響きが前面に出て、アントンKには好印象だったが、肝心な弦楽器群の響きが、後半盛り返してきたとはいうものの、物足りなかった印象をもってしまった。アダージョ楽章の冒頭は、引きずるような弦の動きが印象的であり、心臓の鼓動とダブってしまい、そのテンポと相まって心に響くものがあった。アントンKが最も好きなポイントの一つである、フィナーレ内の経過部→展開部~(M→N)だが、たっぷりとしたフェルマータの後のテンポ感が素晴らしく心躍る。Nからのフォルテッシモの響きは大きく圧倒的であり、ティンパニの4拍目は和音で叩かせていたが、これはチェリビダッケの影響だろうか。90年の来日演奏会でもそうだったが、この日もここの部分は、ティンパニに主導権を渡しオケ全体をけん引していたように感じた。

先日の新日本フィルを振って、究極のショスタコーヴィッチ第5を披露した井上道義。その彼も今年で73歳になるという。指揮者としてはいよいよ巨匠の仲間入りとなるのだろうか。いやいや彼には、独特なキャラクターを生かして、今まで通り我々ファンにフランクに接して頂きたい。演奏会前のプレトークのように、ほんの少しのエピソードでも、音楽に興味が沸きファン獲得に繋がるはずだから・・

フェスタサマーミューザ2019

読売日本交響楽団

ブルックナー   交響曲第8番 ハ短調(ノヴァーク版)

指揮  井上 道義

コンマス 日下 紗矢子

2019年7月31日 ミューザ川崎シンフォニーホール