『 声には色や、匂いや、重さがある。そして力がある 』 漫画の帯封の言葉です。
作者である<片山ユキヲさん>の話を聞いて、是非読んでみたいと思ったのが、『花もて語れ』でした。朗読の世界のすばらしさを漫画で伝えようとした力作です。読んでいて、心が躍るような感動を覚えました。
主人公は、佐倉ハナ という名前の女の子。両親が亡くなり、おばさんの家に引き取られた 引っ込み思案の この女の子が、朗読と出会い 朗読を通して成長していく物語です。朗読の持つ力が、主人公だけでなく、聞いた人々の心まで変えていくというストーリーになっています。
朗読する作品のイメージが具体的な映像として描かれ、その読み方まで視覚的に理解できるようになっている漫画世界です。作品を深く読み取り、確かな朗読理論に裏付けられて描かれているので、確かな説得力ももっています。
悲しい過去をもち、人前では小さな声でしかしゃべれない ハナが、小学生の時に 朗読の師と出会い、学芸会で『ブレーメンの音楽隊』のナレーションをみごとに演じます。ハナのナレーションは、これまでの劇のイメージを変え、役を演じる子どもたちの心を変え、観客を魅了します。やがてハナは成長し、社会人として都会へ出て働き始めることになります。そこで、ひょんなことから朗読教室に通うようになり、朗読のもつ世界のすばらしさに改めて気づかされます。朗読はハナの生きる支えとなり、朗読を通して心からの友人も得ます。
既刊は、3巻までで、春には4巻が発刊されるとのこと、次号が楽しみです。
これまでに取り上げられた、朗読作品は 宮沢賢治作『やまなし』・詩『春と修羅』、高村光太郎作・詩『ぼろぼろな駝鳥』、斎藤隆介作『花咲き山』です。
特に、『やまなし』については、かなりのページをさき、ハナの朗読の様子と朗読によって生まれるイメージ(映像)、朗読のポイント(だれの視点で読むのか、どんなイメージで読むのか)が、一体となって描かれています。これだけでも、朗読の魅力にふれることができるのですが、さらにこの朗読の聞き手が、どんなイメージを抱いているかについても描かれています。聞き手は自分の人生と重ね合わせて聞くことで、自分を見つめなおし、新たな生きる力を見出していくというストーリーになっているのです。作者と私で『やまなし』の解釈については、異なる点もあるのですが、2枚の幻灯が『死と生』『哀しみと希望』といった対照的な世界を描いているといったとらえ方は納得できました。
漫画のもつ新たな可能性と朗読の楽しさ・すばらしさを実感できる、傑作漫画だと思います。
改めて、取り上げられた作品を私だったらどう朗読するかという視点で、読み直してみたいと思いました。