楊令率いる梁山泊軍と童貫率いる宋の正規軍との息詰まる戦いも、決着の時を迎えます。先の戦いで梁山泊軍を破ったのは童貫軍でした。その宿命のライバルとの勝負の行方は、機先を制した楊令の側か、楊令の性格をよんだ童貫の側か、わずかの差で勝敗が決することになります。
戦いの後に流す楊令の涙に、童貫に対する敬愛に満ちた思いを汲み取ることができます。心に残る場面でもありました。
童貫軍との戦いを終え、楊令はこれからのことを、そして志を 熱く同志に語ります。
……宋江様が、最後に俺に言われたのが、光、という言葉だった。『替天行道』の旗が俺に光を当てるとな。…民のための国。『替天行道』の旗を見つめながら、俺が見つけたのは、民のための国という光だった。多くの男たちが、なんのために闘ってきたのか考えても、やはり出てくるのは、民のための国だった。帝など国には要らないのだ。苦しみや悲しみがあっても、民のための国があれば、民は救われる。それこそが、光だ。……
楊令が去った後、軍師である呉用が、付け加えるように次のように語ります。
……楊令殿が言ったことに、どれほどの現実味があるか、誰にもわからん。ただ、ひとつだけ間違いないのは、楊令殿が語ったのが、志そのものだったということだ。…昔の梁山泊では、みんな志を語ったな。志のために、いろんなやつが死んだ。…いま、われわれがほんとうに見つめなければならないのは、自らの内なる志ではないのか。私は、そう思う。…
戦いの先にあるものを考え、自らの志を一人一人が見つめながら、民のための新しい国をつくる。戦いを継続して広大な領土を求めるのではなく、今ある領土の内に理想の国をつくりあげる。そういった方向に向かって、梁山泊は踏み出していくことになります。
荒廃した宋の国の現状を憂い、これからの国のありようと自らの生き方を自問する、他の登場人物たち<官軍の将軍:岳飛、青蓮寺の李富>のこれからの動向も気になるところです。
壮大なスケールの中で、自らの志をもって理想の国をつくりあげようとする、登場人物たちの姿に一喜一憂し、その思いに心が打たれます。
自らの内なる志を、改めて見つめ直してみたいと思いました。