前回「ガザ地区の戦乱①」では、ガザ地区の戦乱と混乱は「イランの罠にイスラエルが嵌ったことが発生原因」というお話をしました。
すなわち、サウジアラビアとイスラエルによる歴史的な国交正常化が実現する直前に、それを阻止したいイランとハマスが「事件」を起こした結果、狙ったとおりにイスラエルは、ガザ地区のパレスチナ市民の犠牲を顧みずにハマス掃討を優先。そしてイランとハマスが狙ったとおり、中東地域の新時代到来は遠のくことになりました。
今回は、このガザ地区の戦乱と混乱に対して、欧州各国の世論と、米国内の世論が大きく異なっていることが、さらに事態の方向性を不透明にする原因になっていることをお話したいと思います。
昨年10月に、ガザ地区のハマスが起こした対イスラエルへの軍事行動と人質奪取行為は、当初、世界中から厳しい非難の対象となりました。中東情勢におけるイスラエル支持派である欧州各国や米国はもちろんのこと、サウジアラビアやUAEなどのアラブ諸国でさえ、ハマスの行為を「時代遅れの蛮行」として否定的に見ていました。
次に、ハマスの起こした暴挙に対して、イスラエル国民の多くが怒り狂います。そして、イスラエル世論はガザ地区への軍事侵攻を強く求めるようになっていき、冷静さを求める世界の国際世論をよそに、ガザ地区への軍事行動に踏み切ることになります。当然ながら、ハマスとパレスチナ市民が混在するガザ地区において、パレスチナ市民の犠牲が数多く発生します。この状況が続くにつれて、イスラエルに対する国際世論が変化していきます。
まず当たり前ですが、同じアラブ陣営にいるサウジアラビア・UAEといった国々では、イスラエルに対する厳しい国内世論が吹き上がります。「イスラエルは、やはりアラブの敵である」と。結果、予定していた国交正常化が遠ざかってしまいます。
次に欧州。伝統的なキリスト教圏である欧州では、今のガザ地区の様子が報道されるにつれ、イスラエルへの批判的意見が増加していきます。狂信的なハマスを攻撃することには賛成しますが、一般のパレスチナ市民の犠牲が増加することに対しては、多くのキリスト教系欧州人が拒絶反応を示しています。
一方、米国。民主党支持者のうちの一部リベラル派がイスラエル批判を繰り広げてはいますが、多くのキリスト教系アメリカ人はイスラエル支持を変えていません。その比率は、全国民の6割を超えています。この米国民世論が、イスラエルの強硬姿勢を下支えしてる大きな原因となっていて、このあたりの事情を、われわれ日本人の多くは知らないままでおります。
このように国際世論が大きく左右にブレてしまっていることが、戦乱が深みに嵌っていく遠因になっています。なぜなら、紛争における双方の「やり過ぎ」を牽制するのは国際世論であるから。その国際世論がバラバラであれば牽制機能は弱くなり、強引な手法がまかり通って、戦乱収拾が遅れることになるからです。
それでは、同じキリスト教圏でありながら、欧州大陸と米国で、どうして上記のような世論の違いが生まれてくるのでしょうか?
この背景についてのワタクシの見解は、次回にお話いたします。(続く)