駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

雨の島

2024年08月25日 | 
        

 呉明益とゆう人が書いた「雨の島」という小説を読んだ。及川茜さんが翻訳している。これぞ文学と感じさせる幻想的な物語集で台湾にこんな話を書ける人が居るのだ。よくこんな素晴らしい日本語に訳せたものだと驚きながら読んだ。
 聊斎志異のある文化圏だから、こうした物語が生まれるのは何の不思議もないかもしれないが、狭い日本に住んで日本は良い国優れた国と喧伝する空気に触れていると知らないうちに近隣諸国よりも日本の文化の方が優れているような錯覚を抱かされていたのかもしれない。
 台湾と表現してよいものか分からないが中華民国では私の感覚ではどこのことか分からなくなる。四十年前受け持ったお婆さんの患者さんが「先生、台湾良いとこよ」と話してくれたのが耳に残っている。
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言語の本質

2024年08月19日 | 
           

 どこで知ったのか忘れたが、面白いと高評価の本だったので取り寄せて読んでみた。「言語の本質」 今井むつみ秋田喜美著 中公新書。
 普段、何気なく使っているオノマトベを手掛かりに言語の本質に迫る本で、目から鱗が落ちた。
 どうやって言葉が生まれ、理解表現の手段として広がり深まっていったのかふむふむと知ることができる。単純に人類は知能に恵まれていたからだろうぐらいに考えていたのだが、ではどのようにしてということが科学的に説明、推測されている。何故共著なのかというと少しく専門の違う二人の出会いが探求の端緒となり、切磋琢磨融合しながら答えを探されたからだろう。
 本でないと分からないこと、一定のボリュームがないと説明できない大切なことが世の中には多い。夏休み一読おすすめの本だ。
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雨の島

2024年03月16日 | 
             

 暫く小説を読んでいないので、気分転換に新聞で勧められていた「雨の島」呉明益 及川茜訳を読み始めた。まだ三分の一くらいしか読んでいないのだが知らない世界と感覚を味わっている。面白いかと言われると迷うが、秀逸と言うか深遠と言うか、凡庸な日常にはない世界に出会った感じがする。
 もう一つ驚くのはこうした物語をよく日本語に訳せたなということだ。自分は中国語は全くできないのでどのように訳されているのか分からないが、訳者が想像というか創造しているのではないかとさえ思ってしまう程だ。
 創造には才能が必要だろうが想像は誰にも可能な気がする。世間の損得で錆び付いた想像力に優れた作品は油を差してくれる。
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目の見えない人は

2023年04月18日 | 

             

 

 「目の見えない人は世界をどう見ているのか」伊藤亜紗 光文社新書を読んだ。

 目の見える人が実は良く見えていないことを教えてくれる本でもあった。目の見えない人は言われてみればそうかと気付くのだが、目の見える人よりも少ない情報で世界を見ている。しかしそれが必ずしも良く理解できていないことを意味するわけではない。例えば目の見える人は前後や表裏を意識区別するために、全体像を見失うことがあるが目の見えない人は全体をひっくるめて把握できている。

 目の見えない人を視覚障害者と表現するので研究の対象にしにくい雰囲気はあったと思うが、伊藤さんは踏み込んでインタービューと協働体験を本にまとめられた。目の見える人間は百聞は一見に如かずはそのとおりだなと受け取りがちだが、実は抜け落ちているところがあり、目をつむっただけでは目の見えない人の理解している世界は分からないのを教えられた。

 伊藤亜紗さんはこうした研究をされているせいか偏りの少ない広い視野を持った研究者で貴重な人と思う。

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ロシア的人生

2023年04月08日 | 

            

 

 小野寺健先生にイギリス的人生という本がある。味わい深くああそうなんだと目を開かされる名著で、文学を通してイギリス的人生を解き明かされている。先生には読みやすく手頃な心に残る言葉というベストセラーがあるが、短い言葉では表し切れない中身がこの本には詰まっている。勿論、文学だけが人間性を明らかにする創作手立てではないだろうが、文学でなければ辿り着けない広がり深みがあると思う。

 そこで読みたいのがロシア的人生である。沼野氏や亀山氏に類書はあると思うが読めていない。何となくちょっと重苦しく小野寺先生のような手触りではない感じがするからだ。それもロシア的ということかもしれない。しかし、プーチンとロシア国民のしでかすことをよりよく理解するには文学者によるロシア的人生が必須のように思う。

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