頭の回転が速く、賢いと言われる医師を何人も知っているが、智慧の使いようがちょっと違うのではと思うことがある。
甲状腺の病気は実は非常に多い。成人女性の十人に一人という統計もあるくらいだ。さてこの十人に一人と言う甲状腺疾患が全て治療の対象になるかと言えば違う。観察の対象にはなっても投薬が必須な人は何分の一にかに減少する。勿論境目は灰色で、専門医でも意見が分かれる症例はある。
どうも賢い先生の中には利に敏い傾向?があるように見受ける方が居られる。先日六十代のおばさんが動悸がするとやってきた。心電図は洞性頻脈だけである。五年ほど前、右側の喉が痛いと某先生を受診、甲状腺が卵のように腫れていると言われ、以降通院しているという。残念ながら患者の理解力が悪いのか先生の説明不足か、何という病気でどういう薬を飲んでいるか、全く分かっていない。私の触診では甲状腺が腫れているようには思えない。卵のように腫れていれば患者にも分かるはずなので、腫れていたかと聞くと今と同じだと思うという。
甲状腺ホルモンを測定するとTSHが0.01でT4が正常域を超えている。どうも薬の量が多い?ようだ。理解の悪い患者さんに多少大げさに説明することはあると思うが、灰色を黒っぽく捉えたような気がする。私が診断治療を変更するのは僭越なので、総合病院の甲状腺専門医に回した。
なんだか同業者に辛辣のようだが、適当な例を思いつかなかったから挙げたまでで、これが適当な例とは言えないかもしれない。
言いたかったことは、世の中に知恵を人のために生かし切れていない方を見受けるということだ。端的に言えば、例えば政治家などで、先を読んで火中の栗を拾わないように気を付けるのが本当の知恵だろうかと訝しんでいる。折角、知恵に恵まれたら自分よりも世のために使っていただきたいと思う。
Photo.R.Ogawa