「無事此れ名馬」、まことにその通りだと思う。しかしながら、「医者知らず、これからも健康」となると、これは大違い。
雪のように白い肌、白雪姫は七難を隠すどころか痺れるように魅力的で、私の経験では若い女性の千人に一人くらいそうした女性が居られる、と怪しげな話が始まりそうだが、残念ながら?違う。
先日肌が透き通るように白い女性患者さんが足が浮腫むと受診された。色白と言っても六十八歳には不自然で、はっきり言えば病的で美しいわけではない。眼瞼結膜も蒼白で、血色素を至急で検査すると4.3gで正常人の三分の一しかない。大出血で三分の一になればショックに陥り放置すれば死に至る血の薄さなのだが、何か月もかけて(恐らく一年近く)ゆっくり進行したために、この頃足が浮腫んで息が切れる程度で済んでいたのだ。
詳しく聞けば一か月以上前から浮腫み始めていたとのこと。言ってはいけないとされてはいるが、つい「どうしてもっと早く来なかったの」と聞いてしまう。今まで健康で医者なんぞに掛かったことはないからと言われる。これはしばしば取り返しのつかない病態で聞かされる台詞で、「そうでしたか」と答えながら心の中では、今まで健康はこれからもということではないんだけどなと思ったりする。
貧血は鉄欠乏のパターンで、それ自体の治療は難しいものではないのだが、問題はその原因なのだ。六十八歳では生理もなく、九分九厘消化管出血で、しかも質の悪いもののことが多い。二か月早く受診されていればと言いたくないが、病気の治療開始は早い方がよい。
病気とも言えない病気で神経質に医者に掛かり過剰な検査を希望して医療資源を浪費する人と、健康を過信して医者嫌いで躓く人と、世の中はというか人間はというか、どうもバランスが悪い。