二十代の日焼けをした男性、不機嫌そうに診察室に入ってくる。
「どうされましたか?」。
「昨日、会社の人に医者へ行っとけと言われたんで」。
??。「熱があるとかどこか痛いんですか」。
「今はもういいんだけど、昨日配達のあと頭が痛かったんだよ」。
なるほど。血圧は118/80/66で、診察しても異常所見はない。どうも上司は熱中症を心配したらしい。現在無症状だし、軽い熱中症だったんでしょうかねと帰って貰うことにした。
軽い熱中症は風通しの良いところで安静にし、スポーツ飲料などを摂れば、自然に軽快する。良くなってから診たのでは異常は見つからないし、処置も必要ない。
本当に熱中症を心配し医療機関受診が必要と判断したのなら、直ぐに受診するように指示するのが良い。どうも不消化な理解と言うか、形式的な指示という印象を受けた。
真夏日があると熱中症で何千人が救急車で運ばれたとか何人が亡くなったとか数字が大きく報道されるけれども、その数字の中身を吟味することを忘れてはならない。本当に何千人もの人を救急車で運ぶ必要があったのか、亡くなった方には失礼で申し訳ないのだが、独り暮らしでご高齢とかいった状況を勘案することなしに、数字だけを躍らせると短絡的な反応を呼び起こしてしまう。
熱中症は予防可能であり、初期は観察と適切な処置で自力で軽快する。自分で考えることを放棄し安易に他力に走るのは、賢いとは思えない。騒ぎ過ぎない甘く見ない中庸が適当なのだ。
尤も中庸が宜しいと言っても、それは十分な経験と思慮に基づいている。単に中間とは意味が違う。