「風流無談」第21回 2009年3月7日付琉球新報朝刊掲載
今朝の琉球新報朝刊に、名護市辺野古沖で実施していた環境影響評価(アセスメント)の年間調査を、沖縄防衛局が3月14日で終えたという記事が載っている。〈調査結果は、二十七日開催予定の国、県の実務担当者らでつくる「環境アセス・建設計画」作業班(ワーキングチーム)で県に報告する〉という。春夏秋冬を通して調査したことをもって、沖縄防衛局は十分な調査をやったかのように装おうとしている。しかし、それはまったくのまやかしである。
以下に2009年3月7日付琉球新報朝刊に掲載された「風流無談」第21回を載せ、沖縄防衛局の環境アセスメント調査終了を糾弾する。
二月十七日、クリントン米国務長官と中曽根外務大臣との間で、在沖海兵隊のグアム移転に関する協定が署名された。仲井真知事の訪米から一ヶ月後に、日米両政府が示した回答がこれである。結局のところ知事の訪米は、日米両政府を刺激して、より強硬姿勢に転じさせたということなのだろうか。知事訪米について改めてその意味が問われるべきだろう。
当の仲井真知事は協定に対し、歓迎の意を示した。辺野古新基地の建設位置をめぐり、表向きは政府と対立しているように見えても、建設推進で知事と政府は同じ立場だ。問題の本質は米軍基地の「県内移設」を容認するか否かであり、知事と政府の対立を針小棒大にとらえ、「県内移設」を推進している知事の問題を曖昧にしてはならない。
辺野古新基地建設に向けた日本政府の強硬姿勢は、環境アセスメント調査を早期に打ち切ろうとしていることにも現れている。春夏秋冬を通して調査したことをもって、あたかも十分な調査をしたかのように沖縄防衛局は装おうとしている。しかし、それはまったくの欺瞞である。
環境アセスメントに向けて沖縄防衛局が出した「方法書」に対し、仲井真知事の名で出された「意見書」では、多くの問題点が指摘された。その中では、単年度の調査では不十分であり、時間をかけて慎重な調査を行うようにという専門家の意見が、いくつもの項目で述べられている。
例えばジュゴンについて見ると、二〇〇七年十二月二一日付「普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価方法書に対する知事意見について」では、こう記されている。
〈沖縄島周辺海域に生息するジュゴンについては、これまで科学的調査などがほとんど行われておらず、その生活史、分析、個体数などに関する知見が非常に乏しい現状であることから、これらに関する知見を事業者として可能な限り把握するため、生活史等に関する調査を複数年実施すること〉(一七ページ)。 現在の政府案であれ、仲井真知事のいう沖合移動案であれ、辺野古崎周辺海域を埋め立て、大規模な自然破壊を行うことにかわりはない。ジュゴンやサンゴ、海草類をはじめとした生物に与える影響はもとより、潮流の変化による海岸の浸食、土砂の堆積、水質汚濁、波しぶきによる塩害など、住民生活に影響を与える問題は、騒音のほかにも多数ある。
二月二七日、名護市で活動している市民団体ティダの会と新基地建設問題を考える辺野古有志の会が、沖縄防衛局に環境アセスメントに関する申し入れを行った。その中で議論となったのは、台風時における調査が行われていないということである。
沖縄防衛局は、二〇〇八年三月に出した「普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価方法書に対する追加・修正資料(修正版)」で、〈水域の状況(流域及び河川流量等の状況)〉について、以下のように現地調査を行うとしている。
〈(b)降雨時 2月~11月までの期間において、台風時を含めて3回〉(一三六ページ)。
また、地形・地質についても以下のように現地調査を行うとしている。
〈(a)砂浜の分布と形状 汀線測量は、台風期を含め季節ごとに計5回とします。…(d)陸域からの供給土砂量 …海蝕崖は、台風などによる変化が捉えられるような時期を考慮して2回実施します…〉(一三九ページ)。
しかし、昨年は沖縄島には台風が来ていない。したがって、沖縄防衛局が調査を行うとした水域の状況、汀線測量、海蝕崖の変化に関して、台風時の調査は行われていないのである。申し入れに対応した沖縄防衛局の職員も、このことは認めている。
それに対し辺野古有志の会からは、次のような不安の声が上がった。辺野古の下の方の集落は低地にあるため、これまで台風時に水害が発生している。新基地建設に伴って集落内を流れる川の河口部も埋め立てられるが、台風時にはこれまで以上の水害が発生するのではないか。そういう調査はきちんとなされているのか。それに対して、沖縄防衛局の職員は、何も答えることができなかった。
沖縄における自然災害の代表的なものが台風だ。辺野古の住民が自分たちの生活体験から、台風時の調査の未実施に不安を抱くのは当然だろう。沖縄防衛局にしても、台風時の調査を必要と認めたから「方法書」の追加・修正資料に引用部を記したはずである。にもかかわらず、台風時の調査を行わずに環境アセスメント調査を打ち切るなら、それは欠陥調査を強引に押し通そうということだ。
環境アセスメントの今後の日程について、沖縄防衛局の職員は、県と調整中とくり返した。仲井真知事はみずから出した「意見書」に基づき、複数年調査の実施を主張すべきであり、沖縄防衛局の調査打ち切りを許してはならない。
今朝の琉球新報朝刊に、名護市辺野古沖で実施していた環境影響評価(アセスメント)の年間調査を、沖縄防衛局が3月14日で終えたという記事が載っている。〈調査結果は、二十七日開催予定の国、県の実務担当者らでつくる「環境アセス・建設計画」作業班(ワーキングチーム)で県に報告する〉という。春夏秋冬を通して調査したことをもって、沖縄防衛局は十分な調査をやったかのように装おうとしている。しかし、それはまったくのまやかしである。
以下に2009年3月7日付琉球新報朝刊に掲載された「風流無談」第21回を載せ、沖縄防衛局の環境アセスメント調査終了を糾弾する。
二月十七日、クリントン米国務長官と中曽根外務大臣との間で、在沖海兵隊のグアム移転に関する協定が署名された。仲井真知事の訪米から一ヶ月後に、日米両政府が示した回答がこれである。結局のところ知事の訪米は、日米両政府を刺激して、より強硬姿勢に転じさせたということなのだろうか。知事訪米について改めてその意味が問われるべきだろう。
当の仲井真知事は協定に対し、歓迎の意を示した。辺野古新基地の建設位置をめぐり、表向きは政府と対立しているように見えても、建設推進で知事と政府は同じ立場だ。問題の本質は米軍基地の「県内移設」を容認するか否かであり、知事と政府の対立を針小棒大にとらえ、「県内移設」を推進している知事の問題を曖昧にしてはならない。
辺野古新基地建設に向けた日本政府の強硬姿勢は、環境アセスメント調査を早期に打ち切ろうとしていることにも現れている。春夏秋冬を通して調査したことをもって、あたかも十分な調査をしたかのように沖縄防衛局は装おうとしている。しかし、それはまったくの欺瞞である。
環境アセスメントに向けて沖縄防衛局が出した「方法書」に対し、仲井真知事の名で出された「意見書」では、多くの問題点が指摘された。その中では、単年度の調査では不十分であり、時間をかけて慎重な調査を行うようにという専門家の意見が、いくつもの項目で述べられている。
例えばジュゴンについて見ると、二〇〇七年十二月二一日付「普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価方法書に対する知事意見について」では、こう記されている。
〈沖縄島周辺海域に生息するジュゴンについては、これまで科学的調査などがほとんど行われておらず、その生活史、分析、個体数などに関する知見が非常に乏しい現状であることから、これらに関する知見を事業者として可能な限り把握するため、生活史等に関する調査を複数年実施すること〉(一七ページ)。 現在の政府案であれ、仲井真知事のいう沖合移動案であれ、辺野古崎周辺海域を埋め立て、大規模な自然破壊を行うことにかわりはない。ジュゴンやサンゴ、海草類をはじめとした生物に与える影響はもとより、潮流の変化による海岸の浸食、土砂の堆積、水質汚濁、波しぶきによる塩害など、住民生活に影響を与える問題は、騒音のほかにも多数ある。
二月二七日、名護市で活動している市民団体ティダの会と新基地建設問題を考える辺野古有志の会が、沖縄防衛局に環境アセスメントに関する申し入れを行った。その中で議論となったのは、台風時における調査が行われていないということである。
沖縄防衛局は、二〇〇八年三月に出した「普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価方法書に対する追加・修正資料(修正版)」で、〈水域の状況(流域及び河川流量等の状況)〉について、以下のように現地調査を行うとしている。
〈(b)降雨時 2月~11月までの期間において、台風時を含めて3回〉(一三六ページ)。
また、地形・地質についても以下のように現地調査を行うとしている。
〈(a)砂浜の分布と形状 汀線測量は、台風期を含め季節ごとに計5回とします。…(d)陸域からの供給土砂量 …海蝕崖は、台風などによる変化が捉えられるような時期を考慮して2回実施します…〉(一三九ページ)。
しかし、昨年は沖縄島には台風が来ていない。したがって、沖縄防衛局が調査を行うとした水域の状況、汀線測量、海蝕崖の変化に関して、台風時の調査は行われていないのである。申し入れに対応した沖縄防衛局の職員も、このことは認めている。
それに対し辺野古有志の会からは、次のような不安の声が上がった。辺野古の下の方の集落は低地にあるため、これまで台風時に水害が発生している。新基地建設に伴って集落内を流れる川の河口部も埋め立てられるが、台風時にはこれまで以上の水害が発生するのではないか。そういう調査はきちんとなされているのか。それに対して、沖縄防衛局の職員は、何も答えることができなかった。
沖縄における自然災害の代表的なものが台風だ。辺野古の住民が自分たちの生活体験から、台風時の調査の未実施に不安を抱くのは当然だろう。沖縄防衛局にしても、台風時の調査を必要と認めたから「方法書」の追加・修正資料に引用部を記したはずである。にもかかわらず、台風時の調査を行わずに環境アセスメント調査を打ち切るなら、それは欠陥調査を強引に押し通そうということだ。
環境アセスメントの今後の日程について、沖縄防衛局の職員は、県と調整中とくり返した。仲井真知事はみずから出した「意見書」に基づき、複数年調査の実施を主張すべきであり、沖縄防衛局の調査打ち切りを許してはならない。