「ボランティアに行こうと思うんだけど…」
旅人が言い出した時、ハハは嬉しかった。
そういう気持ちが息子の中に育っていたのか…
息子のことを頼もしく、またハハとして誇らしく思った。
しかし…
この未曾有の大災害時に、若干15歳の中学生がどこまで皆の役に立てるのだろう…
一方で、ハハはそんな疑問も抱いていた。
余震が続く中、二次災害に遭ったらどうするのか…
ケガをしたらどうするのか…
足手まといになるくらいなら行かないほうがましだ。
「かんちがいボランティア」もたくさんいるらしい。
そういう人たちは即座に帰されてしまうとか…
確かに、手ぶらで被災地に乗り込み「何か手伝わせてください」は無いだろう。
被災者の方々に負担をかけずに、現地にとって「プラスの貢献」だけをしなければ「ありがた迷惑」以外の何物でもない。
それはボランティアではなく、「自己満足」に過ぎない。
そういうことも、親としてよく言って聞かせていた。
旅人は埼玉県社会福祉協議会のボランティアに自ら登録した。
が、なかなか募集がない。
交通網の復旧も完全ではないし、現地の受け入れ態勢も整っていない。
だから、旅人はここ1週間、ずーっと腐っていた。
行きたくても行けないジレンマで毎日イライラしていた。
一方ハハは、正直、ホっとしていた。
このままやり過ごして、いつの間にか4月の始業式を迎えてくれたらいいのに…
しかし、旅人はあきらめてはいなかった。
ネットを駆使して、時々刻々情報収集をしていた。
「あのさぁ…いろいろ調べたんだけど…
宮城県なら県外からのボランティアを募集しているみたいなんだ。
まだ3か所くらいなんだけど…
とりあえず仙台までは新宿からバスが出てるから、それで行く。
その先は行ってみないとわかんないけど、たぶんバスなら行けると思う。
もし足がなくてもヒッチハイクとかすればいいし…」
頼もしいと言うべきか、無謀と言うべきか…
相変わらずだなぁ…
でも、おそらく、彼なら本当に何とかするだろう。
思い起こせば、雪のバレンタイン。
深夜に出かけて行ってなかなか帰ってこなかった旅人。
「うっ、腕が上がらない…」
翌朝よくよく聞いてみると一晩中雪かきをしていたらしい。
それも、自宅のマンション前の雪をかいているうちにどんどんどんどん進んで行って、ついにはローソンの下まで来てしまったらしい。
すると、ローソンの店員が必死に雪かきをしていた。
だから、それを朝4時まで一緒に手伝った…と。
旅人には、「ひとの役にたちたい」という想いがあるのだろう。
生徒会長になったのも、その想いがあったからなのかもしれない。
ハハは旅人の「意思」を尊重してやろうと思った。
息子を信じようと、決意した。
「この町は、私たち・僕たちが、必ず復興させて見せます!」
避難所となっている体育館で、やっとのことで行われた小学校の卒業式。
卒業生代表、若干12歳の少年の言葉の、何と力強いことか。
「被災地では、全ての方々が一丸となり仲間と共に頑張っておられます。
人は、仲間に支えられることで大きな困難を乗り越えることができると信じています。
私たちに、今、できること。
それは、この大会を精一杯元気を出して戦うことです。
がんばろう、日本。
生かされている命に感謝し、全身全霊で正々堂々とプレーすることを誓います!」
センバツ高校野球の開会式。
創志高校、野山主将による宣誓の言葉の、何と心に沁みることか。
手をこまねいて考えているだけじゃ、何も始まらない。
避難所では自らが被災者でありながら避難所の運営の一端を立派に担っている中学生や高校生たちがいっぱいいる。
がれきの撤去や物資の仕分けなど、旅人でもできることは何かしらあるはずだ。
今ハハができることと言えば、節電や義援金くらいしかないけれど…
息子を通じて被災者に直に役に立つことができるのであれば、旅人を支援する意味もある。
アウトドアショップの店員も、ボランティアに行くと知り、貴重なアドバイスをたくさんくれた。
そして、今朝。
寝袋と1週間分の食料や水などを持って、旅人は北へ向かった。
18時ちょうど、メールが来た。
「石巻着いたよ」
さすが、旅人!!
これから君の「想い」を、形にしておいで!!
ハハが、心で、支えているから…