先月であったか、関西にいる娘が「浅田次郎の“天切り松 闇がたり”知っている?」と、メールがあった。
「読みだすと面白くて止まらないから送るね・・・」と。
当方、堅物なのか、池波正太郎時代小説の虜になっており、氏の小説以外さほど読みたいとは思わない。おっと、そう言いながらも、先日「のぼうの城」(著作:和田竜)を購入。
ともかく、折角送ってくれるから、面白いと言うことであれば、読んでみようと・・・何の知識もなく、どのような筋立ての物語かも知らないうちにページをめくった。
どうやらこの小説は、ばくち打ちで飲んだくれの父親、病で臥している母親、姉と弟の一家、その家(や)の息子・松蔵がさまざまな体験を得ながら成長する物語。父親のばくちの借金で、医者に見せることもできずに母親は亡くなり、借金のカタで姉は女衒に連れられて女郎屋に・・・。
主人公・村田松蔵は、父親に連れられて盗賊のお頭(かしら)「目細の安吉」一家に預けられ、一人前の盗賊に育てられるのか。それは、大正6年の暑い夏の昼下がり、松蔵数えの9つの歳・・であった。
目細の安吉とは、2000人からの子分のいる仕立屋銀次の跡目を継ぐかと目されているお頭で、身内には「説教強盗の寅弥兄ィ」、「天切りの達人の栄治兄ィ」、「百面相で騙りの常次郎兄ィ」、「巾着切りのおこん姉さん」たちの役者揃いである。
この盗賊団は、決して貧乏人や金に困っている庶民から盗み取るのではなく、ご大層な金持ち、成金、国を動かすお偉(えら)がたなどから盗み、庶民に金をばらまく・・・いわゆる義賊集団である。
タイトルの“天切り”とは・・・と、不可思議に思っていると、闇がたりが進むうちに徐々に分かってくる。すなわち、“夜盗の花”とも呼ばれている盗みの手法。盗みに入った屋敷の屋根の一部を切り開いて、そこから屋敷に出入りして盗みを行う、とてつもなく大胆なやり口。
そして、“闇がたり”とは、大正・昭和・平成と激動の時代を生き抜いた主人公・松蔵が、年老いて「防犯協力」とか「盗賊に対する捜査協力」の引き換えで留置所に入って「目細の安吉」一家の話を語るものである。新入りの小悪党やヤクザ者、看守を相手に古き良き大正ロマン香る時代の物語・・・六尺四方から先へは届かないという低く抑揚のない夜盗の声音の“闇がたり”。
兄貴分、姉貴分、そして「目細の安吉」親分などに厳しく仕込まれ、叱られながらも一人の男として人間として成長する松蔵。奇妙な関係の友を得、恋も知り、不遇な身の姉を助けるも病で看取る・・・悲しい運命に遭遇する「天切り松」こと、村田松蔵。
江戸っ子の語り口調で綴られているため、最初はちょっと戸惑って読みづらいな・・・プロの読み語りの声音を聞いた方がいいな。
と、思わないでもなかった。(笑)
「 ― その時の親父の面(つら)ァ、忘れようにも忘れらんね。俺ァ父親似で、別れたその時分の父親の年頃にゃ、まったくてめえで鏡を見るのもいやだったぜ。だがひとっつだけ違うところは ― どんなときだって俺ァ、天を仰いでへらへらと笑ったりゃしなかった」と、まあこのような語り口。
清水次郎長の子分で有名な“小政”こと、居合の達人・政五郎(当年78歳)が登場する「残侠」編もなかなかに面白い“闇がたり”。
・・が、「初湯千両」では、読んでいて、最後には何とも気分爽快になってくる。
シベリア出兵で戦死した兵士の息子と母親、湯屋に行く金もない慎ましい暮らしぶりにほだされた「説教強盗の寅弥兄ィ」、その男気が如何なく表れているこの章。そして、これを切っ掛けに寅弥兄ィの夢の中に出てきた二百三高地の激戦地の様子、それがはっきりと寝言に出てしまった。
それを聞いていた“天切り松”こと主人公・松蔵が、初めて寅弥兄ィから聞く戦地の模様と兄ィの辛い思い出・・・。
今夜も、六尺四方から先へは届かないという低く抑揚のない夜盗の声音で、天切り松の「闇がたり」が始まった。その夜の聴衆は、小悪党やヤクザ者、看守や所長たち・・非番の看守もやって来た。(夫)


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「読みだすと面白くて止まらないから送るね・・・」と。

当方、堅物なのか、池波正太郎時代小説の虜になっており、氏の小説以外さほど読みたいとは思わない。おっと、そう言いながらも、先日「のぼうの城」(著作:和田竜)を購入。
ともかく、折角送ってくれるから、面白いと言うことであれば、読んでみようと・・・何の知識もなく、どのような筋立ての物語かも知らないうちにページをめくった。

どうやらこの小説は、ばくち打ちで飲んだくれの父親、病で臥している母親、姉と弟の一家、その家(や)の息子・松蔵がさまざまな体験を得ながら成長する物語。父親のばくちの借金で、医者に見せることもできずに母親は亡くなり、借金のカタで姉は女衒に連れられて女郎屋に・・・。
主人公・村田松蔵は、父親に連れられて盗賊のお頭(かしら)「目細の安吉」一家に預けられ、一人前の盗賊に育てられるのか。それは、大正6年の暑い夏の昼下がり、松蔵数えの9つの歳・・であった。

目細の安吉とは、2000人からの子分のいる仕立屋銀次の跡目を継ぐかと目されているお頭で、身内には「説教強盗の寅弥兄ィ」、「天切りの達人の栄治兄ィ」、「百面相で騙りの常次郎兄ィ」、「巾着切りのおこん姉さん」たちの役者揃いである。
この盗賊団は、決して貧乏人や金に困っている庶民から盗み取るのではなく、ご大層な金持ち、成金、国を動かすお偉(えら)がたなどから盗み、庶民に金をばらまく・・・いわゆる義賊集団である。
タイトルの“天切り”とは・・・と、不可思議に思っていると、闇がたりが進むうちに徐々に分かってくる。すなわち、“夜盗の花”とも呼ばれている盗みの手法。盗みに入った屋敷の屋根の一部を切り開いて、そこから屋敷に出入りして盗みを行う、とてつもなく大胆なやり口。

そして、“闇がたり”とは、大正・昭和・平成と激動の時代を生き抜いた主人公・松蔵が、年老いて「防犯協力」とか「盗賊に対する捜査協力」の引き換えで留置所に入って「目細の安吉」一家の話を語るものである。新入りの小悪党やヤクザ者、看守を相手に古き良き大正ロマン香る時代の物語・・・六尺四方から先へは届かないという低く抑揚のない夜盗の声音の“闇がたり”。
兄貴分、姉貴分、そして「目細の安吉」親分などに厳しく仕込まれ、叱られながらも一人の男として人間として成長する松蔵。奇妙な関係の友を得、恋も知り、不遇な身の姉を助けるも病で看取る・・・悲しい運命に遭遇する「天切り松」こと、村田松蔵。

江戸っ子の語り口調で綴られているため、最初はちょっと戸惑って読みづらいな・・・プロの読み語りの声音を聞いた方がいいな。
と、思わないでもなかった。(笑)
「 ― その時の親父の面(つら)ァ、忘れようにも忘れらんね。俺ァ父親似で、別れたその時分の父親の年頃にゃ、まったくてめえで鏡を見るのもいやだったぜ。だがひとっつだけ違うところは ― どんなときだって俺ァ、天を仰いでへらへらと笑ったりゃしなかった」と、まあこのような語り口。
清水次郎長の子分で有名な“小政”こと、居合の達人・政五郎(当年78歳)が登場する「残侠」編もなかなかに面白い“闇がたり”。
・・が、「初湯千両」では、読んでいて、最後には何とも気分爽快になってくる。
シベリア出兵で戦死した兵士の息子と母親、湯屋に行く金もない慎ましい暮らしぶりにほだされた「説教強盗の寅弥兄ィ」、その男気が如何なく表れているこの章。そして、これを切っ掛けに寅弥兄ィの夢の中に出てきた二百三高地の激戦地の様子、それがはっきりと寝言に出てしまった。
それを聞いていた“天切り松”こと主人公・松蔵が、初めて寅弥兄ィから聞く戦地の模様と兄ィの辛い思い出・・・。
今夜も、六尺四方から先へは届かないという低く抑揚のない夜盗の声音で、天切り松の「闇がたり」が始まった。その夜の聴衆は、小悪党やヤクザ者、看守や所長たち・・非番の看守もやって来た。(夫)





