紙魚子の小部屋 パート1

節操のない読書、テレビやラジオの感想、お買い物のあれこれ、家族漫才を、ほぼ毎日書いています。

老師と少年

2006-11-19 23:24:59 | ラジオ
 恒例の日曜の新聞書評欄漁りをしていたら、二紙で南直哉/著『老師と少年』を取り上げていた。曹洞宗の現役の僧侶の方が書かれた本である。しかし南氏はなかなか一筋縄ではゆかない手強そうなお方である。もちろんこれは褒め言葉である。

 著者の南さんは「すぐに答えが出て来るのは、むしろ胡散臭い」「人生の意味より死なない工夫が大切」と発言され、かなり説得力に満ちている、と思う。ご本人は「私なりの《お経》です」とおっしゃっておられた。自分を探す少年と、彼の質問を受ける師との対話になる形式で書かれているらしい。新潮社のHPで著者と内田樹先生との対談もアップされていて、なかなか興味深い。
 こうしてするすると著者の南さんに注目してしまう。『老師と少年』というタイトルにも目を奪われてしまう。

 この話とは全く別物だが、もう15年も前のラジオで流れていたルモvい出してしまった。ある少年の話である。

 比叡山のお坊さんが彼の家に法事でお参りにみえたとき、彼はまだ(たぶん)小学生だったが、すっかりこの僧侶に参ってしまった。彼の家は(私の記憶ではかなり遠方だった)関西圏外だったにも関わらず、リスペクトの余り弟子入りを願い出て、比叡山で修行することを夢見るのだ。

 たぶんご両親も反対されただろうし、お坊さんも困惑されたかもしれない。が、結局彼の志は固く意志貫徹し、(当然仏教ミッション系の)比叡山中学校に入って仏道を歩むことになる。

 クラスメイトにレメ[ターがインタビューする。明るくざわめく教室で、男子生徒達の無邪気でお茶目な声が響く。「彼はどんな男の子ですか?」という質問に、やんちゃそうなクラスメイトが声を張り上げて「オンナにモテモテ!」「もう、モテモテやねん!」と複数の少年達が悪戯っぽく声を張り上げる。

 修行中の身に「モテモテ」はアカンやろ~(笑)

 彼が師と仰ぐ比叡山の僧侶にも、インタビューがなされた。

「あの子は明るい子で、こっちまで明るい気持になりますわ。だからあの子がおらんかったら淋しいです。こないだ、彼がブルーハーツの「トレイン トレイン」っていう曲のテープを持って来てくれて、ぜひ聴いて欲しいっていうんですな。何回も聴きました」とても誠実に少年に向き合っておられ、微笑ましい気分になった。

そのあとブルーハーツの 『トレイン トレイン』が流れて、私はそのとき初めてこの曲を聴いたけれど、歌詞を聴き、少年の生を見つめる直感の深さに恐れ入った。

 あの少年はいまはどうしているのだろうと、今でも私はときどき考える。師となったお坊さんと少年はどんなふうにその後を過ごしたのか。成人した少年は迷い無く僧侶になったのか、あるいは別の道を選びとったのだろうか。
『トレイン トレイン』を耳にするたび、ほんの数分のルモノしかすぎなかった少年のことを、いまも気にし続けてしまうのである。