三鷹にある研究所の構内に、猫がいる。
カメラを向けると擦り寄ってきた。
やたら愛想の良い猫だ。
初対面の私に体を摺り寄せて、猫なで声で話しかけてくる。
私を敵だなどとは、ツユにも思っていない。
ごめん、何もあげるものはないのだ。
かように、この研究所に生息する動物は、人間も含めて愛想が良い。
ガツガツしていないのが、特徴だ。
時々、「大丈夫かな」と思ってしまうが、慣れると居心地がいいものだ。
塀の外の世界があまりにもドロドロしているので、ここに来るとほっとする。
東京とは思えない。
バタバタしながら、明日、イギリスへ行く順部を整える。
ディスカウントチケットを購入して、座席指定をしようとしたら、奇妙な表示が目についた。
「bit」ちょっとしたからくりと書いている。
なんだろうと思ってクリックすると、座席のオークションだった。
1bit、最低金額319ユーロでビジネスクラスシートを競売する、と書いてある。
安く買ったチケットをビジネスクラスのチケットに変更するのに、319ユーロが高いのかどうかは判断に困るが、面白そうなので参加してみた。
30時間のオークションで、競争相手がいなければ、この最安値でグレードアップができる。
何のことはない、ていの良い、残席処分なのだ。
今頃の時期に、座席が満席ということはない。
ということで、30時間後に、私の安物チケットは319ユーロでビジネスクラスのシートに化けてしまった。
航空会社も、あの手この手だ。
シートを余らして飛行するのももったいない話だ。
だからといって、安く提供するわけにも行かない。
そこで、オークションなのだ。
こうすれば、少なくとも一般乗客から文句は出ない。
こんな遊び心のある航空会社が世界にいくつあるのかは知らないが、少なくとも日本にはないだろう。
猫だって愛想を使うのだから、企業だって愛想よくしたほうが良い。
国だって、自治体だって、みんなもっと愛想よくして欲しいものだ。
そうしたら世の中はもっと楽しくなるような気がする。