「バルビゾン派から印象派への架け橋」という副題の付いた展覧会です。
この画家の事はほとんど知らなかったのですが、副題に魅かれて見に行きました。
彼自身は、バルビゾン派(彼が住んでいたところは、バルビゾンからは少し離れていましたが)に属するサロンでは著名な風景画家ですが、作品自体にはあまり感心しませんでした。
芸術家というよりは職人(父親も風景画家ですし、息子も風景画家です)といった感じで、当時の新興の富裕層が好む田園地帯の風景(彼らはパリ市内に住みながらそういった場所に郷愁を抱いていました)を量産して、経済的にも成功したようです。
しかし、彼は頑迷ないわゆる職人気質の人ではなく、印象派などの新しい技法(特に光の取扱い)にも柔軟で、自分の作品にも取り入れています。
そういった目で見ると、年代順に並べられた彼の風景画を見ると、明らかに技術的にも向上し作品が成熟していっていることが分かります。
また、モネ、ゴッホ、マネ、ピサロなどの次世代の画家が世に出ることにも、おおいにバックアップしたようです。
彼の作品の最大の特長は、フランス北部のオワーズ川やセーヌ川にボート(小さなアトリエ兼寝室の小屋がついています)を浮かべて、上流や下流に旅しながら多くの水辺の作品を描いたことです。
そして、それを「船の旅」という版画集にまとめています。
彼の絵画は風景に徹していて物語性はほとんどないのですが、版画の方は船や川辺(宿屋や食堂など)での暮らしが克明に描かれていて、ユーモアやメルヘンもあり、児童文学の世界と非常に近いものを感じました。
特に、彼のボートは、初期は手漕ぎの小さなもので(後に帆もかけられるやや大きなボートになっています)、時には岸辺にいる見習水夫(後に同じ風景画家になる彼の息子のようです)がロープで引っ張るシーンがあり、私には動物ファンタジーの古典であるケネス・グレアムの「楽しい川辺」(原題は「柳に吹く風」ですが、石井桃子の付けたこの邦題は作品世界の本質をとらえていて秀逸です)の世界(ヒキガエルが脱走の途中で乗った引き船は馬が引いていましたが)を彷彿とさせてくれました。
時代(「船の旅」は1862年の作品で、「楽しい川辺」は1908年出版です)と国(「船の旅」はフランスで、「楽しい川辺」はイングランドです)の違いはありますが、当時は現代よりも時間の流れがゆっくりしていましたし、お隣同士の国なので、ほとんど同じ世界だったのでしょう、