賢治の作品には珍しく、当時の軍国主義が影を落とす作品です。
烏の群れを一つの艦隊と見立てて、当時の軍人たちの気持ちを描いています。
「注文の多い料理店」の新刊案内(その記事を参照してください)には、各短編についての賢治自身による紹介が載っているのですが、この作品については、非常に簡単に以下のように書かれているだけです。
「戦うものの内的感情です。」
しかし、その後児童文学界を席巻する軍国童話とは一線を画していて、烏たちの守護神であるマジエル様(北斗七星)に、以下のように敵味方のない平和な世界を願うのでした。
(ああ、マジエル様、どうか憎むことのできない敵を殺さないでいいように早くこの世界がなりますように、そのためならば、わたくしのからだなどは、何べん引き裂かれてもかまいません)
ただし、この作品が、軍国主義が本格化する1931年の満州事変よりも10年も前の1921年に書かれたこともその背景にはあるでしょう。
大正デモクラシーにより、その後の戦前の昭和時代に比べて、はるかに自由な雰囲気で創作活動や出版活動が行われた大正時代の産物でもあると思われます。
注文の多い料理店 (新潮文庫) | |
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