きっと一生不幸なんだろうな、
と思ってしまう元友人がいる。
もう縁を切ってしまった。
彼女は伊集院華子とか言うような
豪華な名前だった。仮に華子とする。
でも5人家族の長屋住まいで決して裕福ではなく
小学校の頃は「ヒヒ」とあだ名されイジメを受けていた。
そんな華子だが、漫画が好きで
私とも気が合ったので、たまに遊んだりしていた。
中学校になり華子が転校していった。
でも手紙や電話は頻繁にあった。
電話は宿題の答えを教えて欲しいと言う内容が
ほとんどだった。
旅行に行くたびにお土産を買ってくるような
マメな子だった。
お互いが社会人になると、なんとなく遊ぶようになった。
会うたびに華子は言う、
「私らって9歳のときから知り合って、
まだ続いているってスゴクない?」
私はそれを聞くと不快だった。
なぜかわからない・・・。
華子は上品な名前とは裏腹に
下ネタが好きで、下品だった。
早熟で15才には初体験を済ませていた。
そんな華子が10年付き合っていた彼氏と結婚した。
式は挙げなかった。
私は一度も旦那を紹介してもらったことがない。
新居も訪問したが、旦那はいなかった。
「すごいブサイクやから誰にも会わせたくないねん」
と言う。
外で食事の際、旦那が車で迎えに来たことがあったが、
会わせてくれなかった。
私がスキを見て車に駆け寄ろうとすると、
本気で腕をつかんで阻止した。
旦那の生命保険のことで相談を受けた。
旦那は板金加工の仕事をしているが
給料はあまり良くなかったらしい。
華子は身体が弱く、仕事に行けなかった。
旦那が死んだら生活できないと嘆く。
そして旦那の死亡保険金を6000万円にしたいと言う。
掛け金がもったいないので、
1000万円にしたら?と私は提案したが、
頑として聞き入れなかった。
結婚してからも、華子はずっと身体の調子が悪く
旦那に指一本触れさせてないと言う。
それを聞いて唖然とした。
しばらくして、携帯を買ったと連絡があった。
毎日長文のメールが送られてくる。
ほとほと疲れた。
おまけに電話はいつもワンギリで掛けてくる。
たまにコール中に電話に出たら、
話している途中でプツっと切る。
仕方ないので掛け直すと
「電波の調子悪いね」とシレッと言う。
その頃、私にも新しい彼氏ができた。
と言うか付き合い始める一歩手前。
映画を観たり焼肉を食べに行ったり、
楽しい時間を過ごしていた。
肉を焼いているときに
華子から着信があったけど
無視していた。
何度目かに長いコールになった
仕方なく電話に出ると、
今、話ができないかと聞かれた。
今日、デートだって知ってるくせに。
「ごめん、後でかけなおすわ」と言って
私はマナーモードにした。
家に帰ってすぐ華子に電話をかけた。
出ない。
メールを見たら、
私に対するうらみつらみと今夜はもう電話はいいから
と言う内容だった。
朝、8時に電話が鳴った。
華子は昨夜、気分が悪くて寝ていたのに、
夜の私の電話で起こされたと言う。
今から旦那に仕事を休んでもらって
病院に連れていってもらうと言う。
私はさすがに頭にきた。
「じゃあ、旦那さんに謝るから電話代わって」
と言うと、それは無理と言ってきた。
この旦那も少々変っていて
家の固定電話にかけて
「フクです、こんにちは!いつも華子さんと
仲よくさせていただいてます。華子さんいらっしゃいますか」
と言うと無言のまま、電話を取り次いだ。
『もしもし』もない。無言。鼻息だけ。
そんな旦那だ。
それから毎日20件ほど華子は着歴を残してくれた。
メールも
「助けて・・・」とか「死にたい」とか
そんな内容。
仕方ないので、華子に直接電話した。
想像通りかなりバトルが繰り広げられた。
完全にイッちゃってる。
30分ほどお互いののしり合い続けただろうか?
最後に華子がこう言った。
「あーあ、もう私フクちゃんとは縁切るわ」
「あ、そうわかった」
そう言って私は電話を切った。
私はそのとき華子がずーっと嫌いだったことに
初めて気付いた。
人を貶める下品な冗談なんて聞きたくなかった。
同類でいたくなかったんだ。
ほっとした。
その後も非通知のコールは
毎日深夜にあったけど、警察に行くほどでもなかった。
8年ほど前、今日のような蒸し暑い日の昼下がり、
華子から携帯に電話があった。
もちろん非通知。
「あ、フクちゃん?この電話番号フクちゃんやったんや?
元気ぃ?」
「うん・・・」
「久しぶりやねぇ」
「・・・」
「誰の電話番号やろってずーっと気になっててん。
ずっとこの番号のメモ、捨てんと大事に持っててん。」
「ふーん・・・」
「結婚してんなぁ、おめでとう」
「ん、まぁ・・・」
私は始終こんな返事。
さすがに華子も空気を読んで
すんなり電話を切った。
たぶん、感触として二度とかかってこないだろう。
風の噂で華子が私と仲直りしたがっていると
言うのは聞いてた。
でも、私は“ともだち病”から目が覚めたのだ。
二度と友達には戻れない。
華子はずっと私を利用していただけだ。
彼女はずっと不幸だった。
いつも誰かを恨んでいた。
ときどき、ふと苦い思い出とともに華子を思い出す。
今でも不幸なんだろうなぁ。
本当は幸せになってほしいと願っている。
もう会うことはないけどね。