chuo1976

心のたねを言の葉として

死の別れがあっても、これまでの関係はなくならない

2020-01-12 05:12:06 | 文学

死の別れがあっても、これまでの関係はなくならない

 

1月11日 朝日新聞21面

 

東京・吉祥寺に「夏葉社」という小さな出版社がある。編集経験ゼロで出版社を設立し、編集、営業、事務などをたった1人でしているのが著者だ。

自らの歩みを振り返りながら、「仕事とは何か」をつづった。


創業して10年。庄野潤三の小説選集など復刊を含めて35点の本を出してきた。「何十年先も残るもの」を意識し、装丁の美しさも大切にしてきた。

キャッチーな言葉を並べ、発売から数か月を勝負とする本とは一線を画する。理想形は『アンネの日記』だという。「屋根裏部屋で書いた彼女のような小さな声を拾い、時代を超えて届けられることが、本の元来の役割だと思う」

1人の誰かに手紙を書くように本をつくる。知り合いの書店員、読者の顔や趣味嗜好を想像する。基本的に初版は2500部と多くなく、巨利は生めない。


子育てもあり1日約5時間労働。それでも、家族4人で暮らせている。「経営のノウハウはない」とも言う。なぜこのような働き方で生活できるのかは、本書に譲り、ここではその志を紹介する。

作家志望で、27歳までフリーターだった。いくつかの会社に勤めたが続かず、転職活動は50社連続で不採用。

31歳の時、親友だった1歳上のいとこが急死した。失意の中で出会ったのが、英国の神学者の詩だ。

死の別れがあってもこれまでの関係はなくならない、と勇気づける1遍の詩を本にして、叔父と叔母に贈ろうと夏葉社を創業した。『さよならのあとで』と題して刊行した。

約2年前、この本を「200冊下さい」とメールがきた。送り主は、中学1年だった娘を授業中に亡くした母親。

亡くなった娘を思い続けてくれた同級生たちに、卒業式の日に本を贈りたいからだという。

「本が何万部売れたことよりも、こうした思い出が僕の生きがいなんです」

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