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心のたねを言の葉として

「ヨーロッパ人受けのするストーリー」 『ダーウィンの悪夢』その後3    関川宗英

2020-01-25 06:51:16 | ダーウィンの悪夢

「ヨーロッパ人受けのするストーリー」 『ダーウィンの悪夢』その後3    関川宗英
 


『ダーウィンの悪夢』(2004 オーストリア 35mm 107分 フーベルト・ザウパー)  

2004年トロント国際映画祭で初リリース。

2005年山形国際ドキュメンタリー映画祭で、コミュニティシネマ賞、審査員特別賞を受賞。

2006年の3月5日、NHKBS1のBS世界のドキュメンタリー枠で『ダーウィンの悪夢 アフリカの苦悩(前・後編)』として放送。

2007年7月6日、DVD発売。

https://www.amazon.co.jp/ダーウィンの悪夢-字幕版-フーベルト・ザウパー/dp/B00FIWCST6/ref=sr_1_1?__mk_ja_JP=%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%8A&keywords=%E3%83%80%E3%83%BC%E3%82%A6%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%81%AE%E6%82%AA%E5%A4%A2&qid=1579832301&sr=8-1

 


 この映画のDVDが発売される頃、阿部賢一氏は批判の言葉を重ねる。(映画『ダーウィンの悪夢』について考える(10)最終回 阿部 賢一 2007年5月1日  http://eritokyo.jp/independent/abeken-col1041.html)


 ザウパーが映画『ダーウィンの悪夢』でインタビューの相手として選んだロシア人クルー、歌手?兼娼婦、夜警、そして画家?は、どうみても、ムワンザの地元の人間ではない。ストリートチルドレン、これも田舎から出てきた子どもたち、エイズで親を亡くし、都会に流れ込んだ子どもたちであろう。彼らはみんなムワンザの人々にとってのよそ者であろう。水産加工場の幹部やその取り巻き連中は、明らかにインド系の移民の子孫であると、風貌や英語の話し方で分かる。漁村のシーンも新宿中央公園のホームレスのテントのような生活感の臭いのないようなところを撮っている。


 ザウパーは4年間、タンザニアで生活したというが、彼の生活の臭いを感じさせる場所は、映画のどこにも出てこない。ヨーロッパ人受けのするストーリーをつくり、それにうまく合うシーンをつなぎ合わせたにすぎないのではないか。


 4年間、住んでいたがゆえに、あのような断片的なシーンをどこに行けばどう撮れるということも十分わかっていたのだろう。だから、彼が、ストーリーを組み立てるためのシーンを撮ってつなぎ合わせて、自分の主張をしたのだ。彼の撮ったさまざまなシーンによる主張は正しいか、観客は考えながら観る必要がある。


 武器密輸の疑いを証言するロシア人クルーや画家たちを、ムワンザの「よそ者であろう」と書きつける。
 確かに映画の中のインタビューはほとんど英語だ。ザウパー氏と思われるインタビュアーが、スワヒリ語をつかうことはない。「この映画には,ザウパー氏による誤解やスワヒリ語の不適切な解釈が散見される」(「批評:ドキュメンタリー映画「ダーウィンの悪夢」の舞台から」 小川さやか *1)というレポートもあった。言葉の問題は、インタビューの客観性を考えるとき、大切な要素だろう。


 そして阿部賢一氏は、ザウパー氏の映画を「ヨーロッパ人受けのするストーリー」と揶揄する。これについて、次のような記述もある。「グローバリゼーションは現在の世界では、止まらぬ奔流である。当然ながら、そのプラス面、マイナス面が多くある。現在の我々はそのグローバリゼーションのなかで生きている。それを、無慈悲な外国資本あるいは先進国と貧しい搾取される発展途上国そして貧しい人々という単純な構図で観たり考えたりするのはひとつのわかりやすいストーリー」であると。
 このような批判は、小川さやか氏のレポートにもあった。

 

 この映画は国民感情を傷つけるものであった。なぜなら,この映画は「グローバル化の縮図」を端的に示すものであったとしても,ムワンザの多くの住民が,自らの生きる「現実の縮図」と考えるものからはかけ離れているからである。

 

「声なき人々」を受動的かつ平板に描き,地域の複雑性に照らして検討すべき問題群をひとまとめにして,遍在するグローバル化の悲劇として提示する

 

 ムワンザの人々にとって,この映画に詰め込まれた「湖水汚染」「アジア系経営者との格差」「売春婦やストリートチルドレンの増加」「骨身の販売」といった問題群は,それぞれ個別の問題である。これらは,政治経済的な問題であると同時に,民族間の文化的差異や倫理的・宗教的問題,家族関係の変化,果ては個人的な資質など,さまざまな要素が絡み合った問題である。そのため彼ら自身は大局的なグローバル化の物語に回収しきれない具体的な事象を常に発見してしまう。

 

 なるほど、『ダーウィンの悪夢』は現実のタンザニアからかけ離れているかもしれない。小川さやか氏や阿部賢一氏の言うように、『ダーウィンの悪夢』はグローバリゼーションの弊害を単純な南北問題にまとめあげたに過ぎないかもしれない。そして小川さやか氏や阿部賢一氏の両者は、タンザニアの現地の人々からこの映画の評判は悪いと語っているが、この事実は重い。

 しかし、2020年1月22日、NHKニュースでは、世界の2100人の富豪の資産は、地球46億人の資産を上回っていると報じている(*2)。この格差はなくさなければならない。『ダーウィンの悪夢』は、「大局的なグローバル化の物語」、「ヨーロッパ人受けのするストーリー」という批判で語りつくせるものだろうか。


*1 https://ir.ide.go.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=47852&item_no=1&page_id=39&block_id=158
*2 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200122/k10012254271000.html

 

(「「グローバリズムと『ダーウィンの悪夢』」 『ダーウィンの悪夢』その後4    に続く) 

 

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